
南米ブラジルにおいて、地方自治体発の「文化戦争」が10月の総選挙を前に広がっている。サンパウロ市議会は今月、性的マイノリティーによるプライド・パレードへの未成年者の参加禁止を促す法案を一次可決。また中西部のカンポ・グランデではトランスジェンダー女性の女子トイレ利用を制限する市条例が成立した。これに対し、人権団体や弁護士会は「差別的で違憲」だと反発している。選挙の争点の一つに浮上しており、保守派は「子供の保護」「女性の安全」を通じて支持層の結束と拡大を図っている。(サンパウロ綾村悟)
ブラジル最大の都市サンパウロで今月7日、世界最大級のLGBTQ(性的マイノリティー)イベントの一つ「サンパウロ・プライド・パレード」が開催された。例年、キリスト教の「聖体祭」連休に重なる日程で行われ、数百万人の参加者が世界中から集まる。
30回目に当たる今回のパレードは、非常に政治色を強く打ち出したものとなった。テーマは「通りに出て声を上げ、投票箱で証明しよう。選挙で自分たちの権利を守る候補者に投票することで、法律や政策に結び付けよう」というものだ。
政治色を強く打ち出すパレードとなった背景には、左派ルラ政権が掲げる多様性重視政策に強く反発する宗教保守との対立がある。
2023年に発足したルラ政権は、少数者を国家の中心に置くことを強調する形でスタートした。その後、公教育での性的マイノリティーへの理解増進などに取り組みながら、25年にはLGBTQの権利に関する国際宣言にも加わった。
今月4日には、政府主催で性的マイノリティーの権利を保護するイベントをサンパウロで開催、各種支援のために6100万レアル(約17億円)を投入してきた成果を強調した。
ルラ政権の動きは、保守層や福音派を中心とする宗教保守には、伝統的な家族の在り方や性の捉え方、教育内容に国家が関与しているように映る。その懸念を保守派が形にしたのが、地方自治体を通じて打ち出してきた法案や条例だ。
サンパウロ市議会で5月20日に一次可決した法案は、プライド・パレードへの未成年者の参加制限に加え、公道でのパレード開催にまで歯止めをかける内容を含んでいる。条例となるには、市議会での再可決と市長による署名が必要だ。
性的マイノリティーの権利拡大に反発する保守派の動きが社会的に可視化された影響は大きく、今年度の「サンパウロ・プライド・パレード」では、価値観の衝突に巻き込まれるのを避けるように多くのスポンサーが撤退した。
サンパウロやカンポ・グランデの動きは、保守政治家を通じて他の自治体にも波及しつつある。
ただし、自治体発の規制は、憲法や性的マイノリティーの人権擁護を定めた最高裁の判例に反するものとして裁判で覆される可能性が極めて高い。
それでも、保守派がこうした動きを続けるのには理由がある。ブラジルでは、性的少数者を巡る権利拡大の多くが、議会での合意形成よりも司法判断を通じて進んできた。同性婚の容認や差別禁止の拡大も、最高裁の判断が大きな役割を果たしてきた経緯がある。
こうした司法判断は、当事者には重要な前進と受け止められた一方、保守層には「有権者の総意を経ないまま、司法が社会のルールを決めてきた」という不満を残した。
どのような価値観を基準とし、誰が社会のルールを決めるのか。司法主導で進んだ改革への反動が、価値観に関する問題についての主導権を握るための攻防として、地方自治体という最も身近な場で表面化している。
10月の総選挙を前に、保守派は性的マイノリティーを巡る「文化戦争」を通じて、既存支持層の引き締めと、無党派層への浸透を狙っている。ブラジルの地方自治体で進む一連の動きは、単に法的な問題ではなく、選挙を見据えた動きと宗教、価値観の衝突が可視化されたものといえよう。






