
米国が今月3日に実施したベネズエラへの軍事行動は、反米左派マドゥロ政権による独裁体制を崩壊させると同時に、中南米諸国が長年避けてきた現実を突き付けた。それは、この地域がこれ以上米中対立の外側にとどまることはできないという事実だ。
過去20年、中南米諸国は中国との経済関係を急速に深めてきた。中国はブラジル、アルゼンチン、ペルーなどにとって最大の貿易相手国であり、鉄鉱石、大豆、エネルギー資源の主要な買い手となっている。インフラ投資や融資も膨らみ、中国資本は港湾、送電網、通信分野にまで及ぶ。
中国が掲げる巨大経済圏構想「一帯一路」には、中南米20カ国超が参加、中国資本が参加したペルーの巨大港湾施設やブラジルで進む南米横断鉄道プロジェクトなど、中国の影響力はもはや無視できない段階にある。
一方、アルゼンチンのラ・ナシオン紙からは、中国との関係について「経済成長のために不可欠だが、国家主権と戦略分野への影響を軽視してはならない」と警告する声も上がっていた。
また、中国はベネズエラやニカラグアのような独裁政権とも実利優先で関係を結んできた経緯がある。ベネズエラはその象徴として中国とロシアの支援を背景に反体制派を弾圧し、経済は崩壊、何百万人という難民問題や麻薬犯罪組織の台頭を許した。
チリのエル・メルクリオ紙は、こうした状況を「経済的中立を装った対中接近が、結果として地域の治安悪化を助長してきた」と批判している。
この構図を力で断ち切ったのが、米国による軍事行動だった。マドゥロ政権の崩壊は、トランプ米大統領が主張する「ナルコ国家(麻薬国家)」の独裁体制を排除し、西半球における米国の圧倒的な影響力を改めて示した。
米軍の介入は米国内でも議論の対象だが、米国の保守紙からは「中国は港を建設できるが、秩序を回復できるのは米国だけだ」と、今回の行動を抑止力回復の象徴と位置付ける動きも。
アルゼンチンのミレイ大統領は、この現実を肯定的に受け止めた指導者の一人だ。ミレイ氏は、ベネズエラの体制転換を歓迎し、「自由を破壊する独裁は、主権を盾に存続させてはならない」と明言した。ラ・ナシオン紙も、理念なき不干渉主義が独裁と麻薬国家を温存してきたと論じている。
しかし、米国の存在感が強まるほど、中南米に根強い反米感情も再燃することは避けられない。米軍の軍事介入は自由主義や秩序を回復する一方で、主権や人権の侵害を招いた中南米の軍政時代という歴史的記憶を呼び覚ますからだ。
ブラジルでは、ルラ政権が米国を強く非難する一方、タルシジオ・サンパウロ州知事ら保守派は、「独裁と麻薬が主権を破壊してきた現実を直視すべきだ」と主張している。
中南米諸国は今、二つの現実の間で揺れている。一つは、中国は経済成長に不可欠だが、主権や安全保障への影響が避けられないという懸念。もう一つは、米国は秩序と抑止力、自由主義への道筋を提供するが、介入の歴史と反米感情という重荷を背負っているという現実だ。
アルゼンチンのクラリン紙は、この状況を「中南米はもはや“第三の道”に逃げ込めない段階に入った」と評している。
米中の狭間(はざま)の中で、中南米諸国は、主権と秩序、経済成長という価値をどのように位置付け、両立させるのかという選択を迫られている。
同時に米国もまた、中国に代わる現実的な経済ビジョンの提示や、主権侵害への懸念を払拭する努力を怠れば、この地域で持続的な信頼を得ることは難しいだろう。
(サンパウロ綾村悟)
【連載】2026世界はどう動く(1) 米、対中抑止シフトへ 欧州中東の関与縮小図る
【連載】2026世界はどう動く(2) 自民は新しい大義名分を 政治評論家・髙橋利行氏に聞く(上)
【連載】2026世界はどう動く(3) 官民挙げて成長の種探せ 政治評論家・髙橋利行氏に聞く(下)
【連載】2026世界はどう動く(4) 中国 習氏「紅」路線で増す脅威
【連載】2026世界はどう動く(5) 台湾 中国の工作と政治戦激化
【連載】2026世界はどう動く(6) フィリピン 南シナ海問題に多国間協力
【連載】2026世界はどう動く(7) パレスチナ 安定化に依然ハードル ガザ停戦
【連載】2026世界はどう動く(8) ドイツ 経済・安保・移民、課題が山積
【連載】2026世界はどう動く(10) アフリカ 続く政情不安と債務問題
【連載】2026世界はどう動く(11) 韓国 「八方美人外交」に日米難色も







