
トランプ米政権は2期目の外交戦略で、中南米への影響力を取り戻す戦略を重視し、政権発足当初にはパナマ運河の運営問題で圧力をかけてきた。現在、米軍は南カリブ海で麻薬密輸阻止を目的とした軍事作戦を通じて反米左派ベネズエラを牽制(けんせい)している。その背後には、中南米地域における中露の影響力拡大を阻止し、米国のプレゼンスを再確立しようとする狙いがある。一方でベネズエラ側も臨戦態勢に入るなど、緊張が高まっている。(サンパウロ綾村 悟)
トランプ政権は、8月下旬から南カリブ海一帯にワスプ級強襲揚陸艦を含む艦艇7隻、原子力潜水艦、約4500人規模の海兵隊を含む部隊を展開、プエルトリコにはF35ステルス戦闘機10機を配備した。
表向きは、米国に流入する麻薬(コカイン)への対策を強調しているが、反体制派に対する弾圧を行う反米左派ベネズエラへの牽制や、巨大経済圏構想「一帯一路」を通じて中南米への進出を図っている中国やロシアに対する抑止力としての側面も兼ね備えている。
トランプ政権は、麻薬テロ支援や反民主的な行為を理由にベネズエラのマドゥロ大統領に5000万㌦(約74億円)もの懸賞金をかけている。
米軍は2日、麻薬掃討作戦としてベネズエラから発(た)ったとみられる(米軍発表)高速艇を攻撃し、乗員11人が死亡した。トランプ政権は、「乗員は麻薬テロ組織に指定されている犯罪組織の構成員だった」と発表したが、ベネズエラ政府は「漁師だった」と米側の発表を否定した。
事件後、マドゥロ政権は「主権防衛」を掲げて軍・準軍事組織を動員。コロンビア国境やカリブ海沿岸の284の前線に2万5千人規模の部隊を展開すると宣言した。偶発的な軍事衝突が起これば地域全体を巻き込む危険性がある。
ベネズエラ政府は、国営テレビを通じて国民に団結を呼び掛けているが、ベネズエラ社会は長年にわたる経済危機で慢性的な食糧・エネルギー不足に加え、治安崩壊が進んでおり、軍事動員は社会不安につながりかねない。
そのため、中国は経済崩壊に直面するベネズエラを石油開発などを通じて支援、マラカイボ湖の油田に10億㌦近くの投資を計画している。ベネズエラにとっては独裁政権を維持する貴重な外貨獲得の機会だ。
また、中国はパナマ運河周辺の港湾施設や物流に投資し、ブラジルではアマゾンから太平洋岸を結ぶ「南米横断鉄道」プロジェクトに関与している。中南米の戦略的インフラを中国経済圏に組み込む動きだ。
ロシアもベネズエラや中米ニカラグアに対する政治・軍事支援を継続することで米国を牽制している。
こうした中、米国は中南米での影響力の回復や資源確保に向けた動きを加速している。中南米にはパナマ運河など戦略的要衝が存在するだけでなく、原油やリチウムなど豊富な資源があふれている。
ベネズエラと領土紛争中のガイアナは、人口約83万人の小国ながら、大西洋岸の沖合に大規模な海底油田が発見されたことで世界の注目を集めている地域だ。この地域では米エクソンモービルが大きな権益を確保、南カリブ海への艦艇派遣は、戦略的資源ルート確保と中露牽制の多重的な意味を持っている。
また、長年にわたって反米左派政権が続いてきたボリビアでは、大統領選挙で親米派が優勢となっており、親米政権が誕生すれば、左派政権下で中国系企業が投資してきたリチウムなどの鉱物資源に米系企業がアクセスすることも可能になる。
米軍の南カリブ海への展開で、偶発的な軍事衝突の可能性も出てくる。トランプ政権は軍事圧力を通じてベネズエラの反体制派に対する迫害の緩和や民主化に向けた動きなどを外交的に求めていくものとみられる。
現状は、ベネズエラ側の軍事動員とその背景にある中露の支援など、南米での冷戦時代的な構図をうかがわせるが、地域での影響力強化に向けた米国の揺るぎない姿勢を示すものとなっている。






