
「ブラジルのトランプ」こと、ボルソナロ前大統領に対する裁判がヤマ場を迎えている。ボルソナロ被告には、2022年の大統領選後にルラ政権の発足をクーデターなどを通じて妨げようとした容疑がかけられており、厳しい判決が下る可能性が高い。一方、裁判には、ブラジル国内から異論が出ている他、トランプ米大統領が「魔女狩り裁判だ」と批判、ブラジルに50%の関税を課すなど外交問題にも発展している。(サンパウロ綾村 悟)
ブラジル最高裁は15日、ボルソナロ被告に対する「クーデター共謀疑惑」に対して、9月2日から15日の間に評決および量刑を下す方針を明らかにした。
ボルソナロ被告は、クーデター未遂(共謀)や公務員の殺人教唆など五つの罪状で起訴されている。
検察側は12年超の実刑を求めているが、直接的な証拠に欠けることや前大統領としての地位、高齢や社会的影響が考慮され、10年以下の量刑や自宅軟禁となる可能性も残されている。
これまでに検察が提出した証拠は、主にSNS投稿や支持者の証言、政治的発言記録に基づくもので、ボルソナロ被告が具体的にクーデター行為を指示したことを示すものは限られている。
ただし、最高裁は、民主主義を転覆させる犯罪には「広い証拠解釈」が許されるべきだとみており、メディアの論調や世論調査も有罪を妥当とする意見が多い。
一方、ブラジル国内の一部の憲法学者からは、「証拠主義」の原則に立ち、重大な刑事罰を科すには推定に頼らない慎重さが求められるべきだとの指摘もある。
ボルソナロ被告と弁護団は、退任後に政権移行を円滑に進めたことは、クーデターの意図がなかった可能性を示すと主張、決定的な証拠に欠ける中で、裁判の正当性そのものを問う声も決して小さくない。
ボルソナロ被告は現在、SNS使用禁止令に反したとの理由で自宅軟禁下にあり、政治的発言や活動が厳しく制限されている。
これに対しては、リベラル系のメディアからも「言論や表現の自由に反する」との批判が出ている。
裁判を担当する判事の一人、モラエス判事は、過去にボルソナロ被告と対立してきた経緯がある。同判事が裁判に加わっていることに司法の中立性が失われるとの懸念も出ている。
こうした中、9月上旬に出る最高裁の判決は、来年の大統領選挙に向けて国内の分断や外交問題にも発展している。
最高裁で有罪判決が出た場合、弁護側は控訴することが予想されている。控訴審で敗訴した場合には米州人権裁判所に救済を申し立てる手も残されている。
ボルソナロ被告は、立候補資格を失うなど政治的活動は制限されるが、有罪判決を受けたブラジル保守派の〝殉教者〟として保守派再編の鍵を握る可能性は高い。
反ボルソナロ派のモラエス氏らブラジル左派としては、ボルソナロ被告の政治活動を抑えたいが、有罪判決が逆に求心力を高めることにもつながりかねないわけだ。
ブラジル国内においても、有罪判決を「民主主義や法の支配が守られた」と支持する有権者が出る半面、保守派が裁判を「政治弾圧」と受け止めて左派の現政権や司法、メディアへの批判を強め、国内分裂につながる事態は十分に想定される。
外交面の問題もある。トランプ氏は、保守派の「盟友」ボルソナロ被告に対する裁判を「政治的な魔女狩り」と批判し、ブラジル製品に最高50%もの高関税を課した。
これに対してブラジル政府は、中国との経済関係を強化し、新興国グループ「BRICS」諸国との協力拡大を進めている。米国と距離を置く一方で、中国傾斜を強めることへの懸念が、保守層を中心にブラジル国内で広がっている。
有罪判決が出た場合、トランプ氏がブラジルに対して新たな制裁措置を取ることも予想され、米国との衝突や中国への傾斜がブラジルの大統領選挙での政策課題として浮上することもあり得る。
裁判では、半数を超えるブラジルの有権者から、ルラ大統領の「ブラジルの主権を守る」姿勢、司法の独立性、民主主義を守る防波堤としての司法の役割が評価される一方、「証拠主義」「言論の自由弾圧」への懸念や国内分裂の危機にも直面している。






