
(サンパウロ綾村 悟)
南米北西部(太平洋側)の赤道直下に位置するエクアドルは、人口約1800万人、国内総生産は南米12カ国中6位の1188億㌦で、主要輸出品は原油やバナナなどの農林水産物で、2023年には中国が米国を抜き同国の最大貿易相手国となった。
近年の南米では、ブラジルやペルーなど多くの南米諸国の最大貿易相手国は中国となっており、インフラの建設や投資にも中国企業が深く関わっている。
エクアドルは、地理的には、コロンビアやペルーと国境を接している他、地政学的要衝のパナマ運河にも比較的近く、1999年に米軍がパナマから撤退した後には、エクアドルのマンタに米軍基地が移転していた。マンタの米軍基地は、反米左派コレア政権下で行われた国民投票(2008年)で廃止が決まり、09年9月に完全撤退している。
07年から17年まで続いたコレア政権は、反米左派のベネズエラや中国と接近、特に中国からは多額の財政融資を受ける一方で、原油の9割近くを中国に輸出、資源開発にも中国資本が多く関与するようになった。同国は電力のほとんどを水力発電に頼っているが、同国最大の水力発電ダムも中国企業の建設によるものだ。
その後、17年5月にコレア政権を引き継ぐ形で就任したモレノ元大統領は、支援者だったコレア氏に反旗を翻す形で親米路線に転換、その後、同国では親米路線が続いてきた。
今回の大統領選挙で主要候補となったのは、23年に横領疑惑で退任した中道右派ラソ大統領の残り任期を引き継ぐ形で同年の大統領選挙に当選した、現職の親米右派ノボア大統領と、コレア元大統領の後継候補ルイサ・ゴンサレス元国会議員(47)だった。
ノボア氏が、決選投票を間近に控えた3月末に米フロリダでトランプ米大統領に会い、トランプ政権との親和性を強調する一方、左派のゴンサレス氏が当選した場合には、ノボア政権下で距離が置かれつつあった中国との関係が見直されるとの見方もあった。
ノボア氏の再選は、アルゼンチンやエルサルバドルの大統領選挙で続いた中南米地域での保守回帰の流れを確認するものだ。
さらに、ノボア氏の当選は、トランプ政権にとっても南米のプレゼンス強化に向けた足掛かりとなるものだ。
ノボア氏は、米国との間で自由貿易協定(FTA)だけでなく、コレア政権下で撤退した米軍基地の再誘致をトランプ政権に求めていくと言われている。
現在、エクアドルは、隣国のコロンビアやエクアドルから流入する麻薬密売組織によって治安が悪化しており、凶悪犯罪の発生率は世界最悪のジャマイカにも並びかねない状況だ。
こうした中、ノボア氏は、憲法改正による米軍基地の再誘致を求めることで、治安改善と米国との関係強化の相乗効果を狙っている。
また、米軍基地の誘致先に関しては、太平洋岸のマンタに加えて、本土から1000㌔離れた太平洋上にあるガラパゴス諸島も計画に入っている。同諸島は、中国がペルーのチャンカイに建設した中南米最大級の港湾施設と中国本土を結ぶ海上ルートの近くにある。
チャンカイの港湾施設は、有事には中国軍の艦艇が寄港する可能性が懸念されており、米国は、マンタとガラパゴスに米南方軍の基地を設置することで、中国による民間・軍事両面での「海の支配」を制限しようとしている。
さらに、同諸島沖は近年、中国漁船の大船団による違法な漁が問題となっている他、エクアドルから米国や欧州にコカインを運搬する海上ルートにも近く、レーダー施設や早期警戒機の運用により、欧米に流れ込む膨大な違法麻薬の摘発や、貴重な海洋資源の監視という効果も期待されている。