軍事力行使も辞さない構え

米トランプ政権が、南米の新興産油国としての地位を築いているガイアナとの安全保障強化に乗り出している。ガイアナの油田は大西洋岸沖の海底油田だが、その権益を巡って隣国の反米左派ベネズエラがこの地域の領有権を求めているためだ。ガイアナからブラジルまでつながる南米の大西洋岸は、新たな油田地帯として世界的にも注目を集めている。ガイアナの安全保障と海上輸送路の確保に向けて、米国は軍事力の行使も辞さない強い姿勢を示している。(サンパウロ綾村 悟)
ガイアナのアリ大統領とルビオ米国務長官が27日、ガイアナの首都ジョージタウンで安全保障体制の強化に向けた協定を締結した。米国がガイアナの安全保障に積極的に関与するためだ。
その理由は原油だ。南米北部に位置するガイアナは10年ほど前までは人口80万人にも満たない南米最貧国の一つだったが、2015年に海底油田が発見されてから運命が大きく変わった。
米エクソンモービルを中心とした企業連合による投資と開発により、ガイアナは世界有数の経済成長を実現、国民1人当たりの産油量は世界最大だ。
現時点の推定原油埋蔵量は110億バレル。中東の産油国やベネズエラに比べれば少ないが、新たな油田も発見されており、産出される原油も良質だ。
海底油田は、ガイアナが東の国境を接するスリナム(人口約60万人)からも見つかっている。両国を合わせた推定原油埋蔵量は175億バレルを超え、27年までに両国合わせて日量約150万バレル相当の原油生産が期待されている。

米国にとって、中東より近く深刻な紛争や内戦にも巻き込まれていない両国の原油は安全保障の観点からも欠かせないものだ。
そのガイアナに触手を伸ばしているのが、隣国ベネズエラの反米左派マドゥロ大統領だ。
ベネズエラは、世界最大3000億バレル相当の原油埋蔵量を誇る南米最大の産油国だ。
ただし、産出されるのは重質原油だ。輸出するためには軽質原油やナフサによる希釈が必要で、それらは輸入に頼っている。さらに、強権政治下の放漫財政などが招いた経済危機や原油施設に対する投資不足から原油生産は停滞、27年にはガイアナに原油産出量で追い抜かれる可能性があるという。
一方、ガイアナで見つかっている海底油田の多くは、ベネズエラと国境を接するエセキボ地域に集中している。
エセキボ地域は、19世紀からベネズエラとガイアナが領有権を争ってきたが、1899年の国際調停によりガイアナへの帰属が認められた。ただし、ベネズエラはその後も領有権を主張しており、特にガイアナ沖で原油が発見された2015年以降はその動きが激しくなっている。
ベネズエラ政府は23年12月にエセキボの領有を問う国民投票を実施、その結果を基に同地を新たなベネズエラの州として併合することを発表した。ベネズエラ側の動きに対して、ガイアナは国際司法裁判所(ICJ)に提訴、来年には判断が下る見通しだ。
ガイアナ沖で油田開発が進む中、ベネズエラは実力行使にも近い動きを強めている。3月初めには、武装したベネズエラ沿岸警備隊の艦艇が、ガイアナの排他的経済水域に侵入すると、作業中の原油掘削船に接近して「ベネズエラの排他的経済水域を侵犯している」などと警告した。
さらに、マドゥロ氏は、アリ氏を「ガイアナのゼレンスキー(ウクライナ大統領)だ」と批判、ロシアによるウクライナへの「軍事作戦」に例えながら資源の所有権と領有権の正当性を主張している。小国ガイアナの国防軍は3000人に満たず、本格的な侵攻を受ければ、ロシアの軍事支援を受けているベネズエラの相手ではない。
こうした中、ルビオ氏は27日、「(ガイアナへの)軍事侵攻はベネズエラにとって最悪の日になる」「米海軍は強力でどこにでも派遣できる」と発言した。米海軍は昨年5月、空母「ジョージ・ワシントン」をガイアナ沖に派遣して演習を行っている。
トランプ政権は、ガイアナとの安全保障体制を拘束力を含めたより強固なものにする意向を示しており、エクアドルからの米軍基地撤退に代わる南米でのプレゼンス強化にもつながる動きとなっている。