トップ国際中南米中国EV工場建設で奴隷労働ーブラジル 身分証没収 給料差し押さえも

中国EV工場建設で奴隷労働ーブラジル 身分証没収 給料差し押さえも

北京モーターショーで開催された中国EV最大手 BYDの新車発表会=昨年4月25日、北京(時事)

中国電気自動車(EV)最大手の比亜迪(ビーヤーディ)(BYD)は、2024年度の世界販売台数で427万台と躍進、業界の話題を集めている。ブラジルは、BYDの海外最大市場に成長し、昨年は7万6713台が売れた。一方、同社がブラジルに建設している工場では、中国人労働者に対する「奴隷労働」が社会問題となり批判を集めた。ブラジル法務公安省(旧労働省)が「国際的な人身売買に相当する」とまで言及、BYDの躍進に冷水を浴びせる事態となっている。(サンパウロ綾村 悟)

 「BYDのドルフィン(EV)を購入して1年になるが、とても気に入っている。サンパウロ市近郊の利用に限定すれば高得点を付けられる」。BYDオーナーのフェルナンドさん(57・自営業)は、BYDがブラジルで売れる理由を説明する。

南米最大の都市サンパウロの人口は世界5位の1145万人。ブラジル国内で登録される自動車の10%に当たる620万台が同市に集中し、日常的な交通渋滞の発生率は世界最悪とも言われるほどだ。

交通渋滞を緩和するため、同市では「曜日別通行規制」を導入、朝夕の通勤時間帯に通行規制される車が、ナンバープレートの末尾番号で曜日ごとに分けられる。

ただし、タクシーや市営バスと同じく、EVとハイブリッド電気自動車(HEV)だけは、「低公害」を理由に規制から除外されている。

フェルナンドさんは「EVは通行規制から除外されているだけでなく、昨年までは自動車税(IPVA)も還付された。自宅に太陽光発電パネルがあれば燃料費も無料だ。街中の充電施設が少ないのが問題だが、条件が合う人ならEVを勧められる」と言う。

ブラジルは温暖な気候柄ゆえに寒冷地特有のEV問題も少ない。水力などの再生可能エネルギーによる国内発電率が82%という背景も、EVやHEVの普及にはプラスとなる要素だ。

BYDのブラジル躍進のきっかけとなったのが、親中派として知られるルラ大統領の中国訪問だ。23年4月に北京を訪問して習主席と会談を行ったルラ氏は、ブラジルから撤退した米フォード社の工場跡地にBYDを誘致し、BYDは大規模投資と1万人の雇用を約束した。

昨年、同社はブラジルで7万6713台を販売、参入2年目にしてブラジルの自動車業界で8位となった。

同社は、ブラジル北東部のバイア州に30億レアル(約780億円)を投資して年間15万台の電動車を製造できる中国国外では最大規模となる新工場を建設しており、4月には稼働が始まる予定だった。

ところが、昨年12月に工場建設を巡る衝撃的な事件が発生した。ブラジルの連邦警察と労働検察庁、法務公安省(MPT)が工場現場を急襲し、「奴隷状態」で働かされていた中国人作業員163人を救出、工場建設を中止させたのだ。作業員は、BYDと契約する中国系の建設会社が中国から連れて来ていた。

従業員の労働・居住環境は悪く、現地メディアが公開した動画や写真はブラジル社会を驚かせた。

また、身分証明書を取り上げられたり、給料を差し押さえられたりしていた従業員もいた。長時間労働を強いられており、現場監督が暴力を働いていたとの報告もある。

報告を受けたBYDは、「ブラジルの法律と人権や人間の尊厳を最大限に尊重する」との声明を発表、工事請負企業との契約打ち切りを発表した。

BYDからは「中国を貶(おとし)めようとする外国勢力が批判を行っている」(広報関係者)との反発の声も上がっているという。

ただし、ブラジルの法務公安省は、今回の案件を「奴隷労働と国際的な人身売買に相当する」とまで断言しており、BYDはブラジルの労働基準を順守できる態勢を構築することが求められている。

ブラジルでは、しばしば奴隷労働が当局によって摘発されるが、外国企業による奴隷労働の摘発は非常に珍しい。

BYDをはじめとする中国製EVに関しては、米国や欧州が中国政府の補助金制度などに反発して高関税を掛けており、トランプ氏が米大統領に就任すれば、さらに厳しい対応も予想される。EV販売の世界的な減速が懸念される中、ブラジルは欠かせない市場だ。

ブラジルにも、他の南米諸国と同様に中国製の安価な商品はあふれている。BYDは、EVという時代の先端を行く工業製品を通して中国製品へのイメージを変える契機となるはずだった。今後は、現地の法律を順守した上で現地雇用を進めるなど新たなイメージの構築が求められている。

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