ブラジルが深刻な干ばつと森林火災に直面している。9月初旬までにブラジル国内で記録された森林火災は史上最多の約15万8千件に上り、最大都市サンパウロをはじめとする多くの都市は森林火災で発生した煙霧に包まれた。特に世界的にも貴重な自然と生態系を持つアマゾン熱帯雨林やパンタナル湿原が受ける被害は深刻で、異常気象による干ばつや熱波が続けば、2070年までに世界自然遺産パンタナルが消滅するという衝撃的な報告も出ている状況だ。(サンパウロ綾村悟)
ブラジルは現在、観測史上最悪とも言われる干ばつと熱波に襲われている。アマゾン川やパラグアイとの国境にあるパラグアイ川は、支流などで観測史上最低の水位を記録した。
干ばつと熱波の原因になっているのは、南米の太平洋沖合で発生しているエルニーニョ現象だが、専門家は、地球温暖化による気候変動が異常気象を加速させていると指摘する。
アマゾン熱帯雨林や中央高原、パンタナル湿原、大西洋岸森林地域などでは森林火災が多発、今月に入ってからも1日当たり数千件の新たな火災が発生している。森林火災の多くは開発などを目的とした人為的なものだ。
森林火災は、人々の生活にも影響を与えている。サンパウロや北部マナウス、西部のクイアバなど国内の広範囲にわたる都市が煙霧に覆われ、気管支に問題を抱えた患者が医療機関に押し寄せている。
ブラジル各地に広がる森林火災の中でも、パンタナルの火災は破壊的だ。過去最悪と言われ、パンタナル全域の27%(約5万平方㌔)に被害を与えた2020年を超える火災が報告されている。
ブラジル国立アマゾン研究所(INPA)の気象学者で地球温暖化研究の権威として知られるカルロス・ノブレ博士は今月初め、「パンタナルは、この30年ですでに全面積の3割以上を喪失している。ブラジル各地に干ばつや熱波をもたらす異常気象と森林火災が続けば、湿地帯としてのパンタナルは70年までに消滅するだろう」との研究結果を公開した。
ノブレ氏は、アマゾン熱帯雨林の役割とその影響を地球規模で捉えることに貢献した先駆者として知られており、世界規模で確認されている気候危機は「これほど早く異常気象が加速するとは誰も予測すらできなかった」「気候変動はさらに加速するだろう」と警告している。
パンタナルは、世界自然遺産にも指定されている世界最大の湿原だ。絶滅危惧種のジャガーやスミレコンゴウインコに豊富な植生など世界有数の生態系を誇る「生命の楽園」としても知られる。
同地は、北西と西部を熱帯乾燥林、北部や東部は巨大なセラード(サバンナ・熱帯性草原地帯)という熱帯性の乾燥地帯に囲まれている。その独特な地形や植生、パンタナル全域の80%が水没するほどの雨期の水量が、奇跡のような自然美を生み出してきたが、そのバランスが崩れようとしているわけだ。
ノブレ氏は、世界最大のアマゾン熱帯雨林に関しても言及している。現在のペースで森林火災や違法伐採などが続いた場合、70年までに熱帯雨林の面積が半分にまで消失する可能性があるというのだ。
さらに、パンタナルとアマゾンの環境破壊が進み過ぎており、回復可能な「転換点」を過ぎた可能性があるとも説明している。
ノブレ氏の警告は、ブラジルの各メディアが取り上げ、世界各地で起きている異常気象がブラジルにもたらす破壊的な未来を突き付けた。
こうした中、ノブレ氏は、これらの壊滅的な危機を防ぐためには50年までに温暖化ガスの抑制などを実現することが欠かせないと主張する。
また、ブラジルのシコ・メンデス生物多様性研究所のベルリンク研究員は「森林火災が多発する乾期は雷もなく自然発火は起こらない。ガソリンなどの揮発性の高いものを使った人為的な火災がほとんどだ」と説明する。予算と人員、法整備などでパンタナルやアマゾンの環境破壊を遅らせることは十分に可能だということだ。
ブラジルは、25年11月に予定されている第30回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP30)の開催国だ。ブラジルの環境問題に対する姿勢と世界有数のブラジルのエコシステムが危機に直面していることを世界に示す絶好の機会となる。