【サンパウロ綾村悟】ブラジルのマリナ・シルバ環境・気候変動相は4日、上院の環境問題対応委員会の公聴会で、気候変動による干ばつなどの異常気象が悪化すれば、今世紀末までに「パンタナル」が消滅する可能性があると警告した。パンタナルは世界最大の湿原として知られ、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が世界自然遺産に指定している。
シルバ氏によると、環境・気候問題の研究者は、少雨による干ばつや蒸発散(水環境の激変)が続いた場合、今世紀末までに湿地帯としてのパンタナルが消滅する恐れがあると警告している。シルバ氏は、消防士の増派支援を含む環境省への予算増額を要請している。
ブラジルは現在、全国規模で未曾有の干ばつによる森林火災や異常乾燥に襲われており、2000近くの自治体が「重度の気候危機」(シルバ氏)に直面している。連邦首都府のブラジリアを含む17州で「異常乾燥注意報」が発令されている。
森林火災も多発しており、8月だけでブラジル全土で6万8千を超える森林火災が報告された。アマゾン熱帯雨林やパンタナル、サンパウロ地域の森林火災によりブラジル各地で煙害が発生、多くの地域で健康被害が報告されている。煙害により空が見えない地域も増えている。
パンタナルは、その中でも過去最悪ペースの火災に直面しており、パンタナルが湿地帯を維持するための「限界点」に達しつつあると警告する専門家もいる。森林火災防止や植林などの対策を行わない限り、サバンナ化は避けられないという見方だ。
パンタナルは、世界有数の生態系を持つ「動植物の楽園」としても知られる。ジャガーやスミレコンゴウインコなど絶滅危惧種の動物も多く、森林火災により生息地が急速に奪われている。
また、湿原は面積比で熱帯雨林よりも多くの二酸化炭素を吸収しており、パンタナルが消滅した場合には膨大な量の二酸化炭素が大気中に放出され、地域の気候安定に多大な影響を与えることも懸念されている。