南米ベネズエラで7月28日、反米左派ニコラス・マドゥロ大統領の任期満了に伴う大統領選挙が実施された。現職と野党統一候補エドムンド・ゴンサレス氏の一騎打ちとなったが、事前の世論調査や出口調査がゴンサレス氏の圧倒的優勢を示したにもかかわらず、選管当局はマドゥロ氏の当選を発表した。しかし、国内外からは、公正な選挙が行われたとは認め難いとして、開票作業の見直しやマドゥロ氏の退陣を求める声が上がっており、マドゥロ政権は強権と弾圧で政権維持を図ろうとしている。(サンパウロ綾村 悟)
四半世紀に及ぶ反米左派政権が続く南米ベネズエラ。その歴史は、強権と独裁化、反大統領派に対する迫害や弾圧の記録にもなっている。
ベネズエラの左派政権は、1998年の大統領選で、カリスマ政治家として知られた故チャベス大統領が当選したことに始まる。チャベス氏は「21世紀型の社会主義実現」を提唱、キューバやボリビアの反米左派政権と共に21世紀初頭における中南米左傾化の中心にもなってきたが、次第に強権化し、自身に批判的な報道を行う民間放送局などを閉鎖した。
現職のマドゥロ大統領は、チャベス氏が2013年3月にがんで亡くなる前に後継者として指名した人物だ。マドゥロ氏は、チャベス氏の死去後に暫定大統領に就任、同年4月の大統領選で野党候補に勝利した。マドゥロ氏は次第に強権化を進め、現在は軍や最高裁、選管などほぼ全ての権力を独占している。
両政権下では、多くの野党関係者や反大統領派が「国内騒乱罪」などの容疑で拘束・逮捕され、政治犯として収監された。米政府は、人権侵害を容認できないとして経済制裁などを科し、制裁解除の見返りとして政治犯の釈放などを求めてきた。
一方、マドゥロ氏が再選された18年の大統領選では、政府側が野党の有力政治家を国家反逆罪の容疑で拘束するなど大統領選出馬を妨害、野党陣営は大統領選をボイコットした。その後、野党指導者のグアイド元国会議長が暫定大統領を宣言、米国、ブラジルなど17カ国の支持を得て政権移行を図ったが、要とされたベネズエラ国軍関係者がマドゥロ氏を支持したために実現しなかった。
今回の大統領選でも、マドゥロ氏は強権で政権維持を図ろうとしている。
マドゥロ政権は、野党の主要候補の出馬をことごとく妨害、最終的に野党連合は政治経験のない元外交官のゴンサレス氏を擁立した。政権側の予想に反し、野党指導者マチャド氏を前面に押し出した選挙活動は成功、事前の世論調査では野党候補に6割以上の支持が集まり、圧勝が確実視された。
ところが、ベネズエラ選管は、即日開票の結果としてマドゥロ氏が過半数を獲得して3選を決めたと発表した。民間の出口調査はゴンサレス氏が65%を獲得、野党側の独自集計でもゴンサレス氏は67%を獲得して圧勝していた。
ただし、マドゥロ政権の影響下にある選管が、途中の開票速報などを公開することなく、突如としてマドゥロ氏の当選を発表したことも、選挙前から予想されたことだった。
こうした中、米国などが選挙結果に異議を唱えただけでなく、南米の主要左派として知られるブラジルやコロンビア、チリの首脳が、詳細な選挙結果の公開を求めている。親ベネズエラ派として知られるブラジルのルラ大統領は、国際的なオブザーバーの下で再選挙を行うように求めている。
ただし、マドゥロ氏はこうした提案や批判を一蹴、強権で3選を既成事実化しようとしている。
ベネズエラの野党陣営は、17日に国内外で一斉に選挙結果の見直しやマドゥロ氏の退陣などを求めるデモを行った。首都カラカスでは多くの支持者が集まったが、当局によるデモ参加者の拘束や検挙も続いている。
人権団体によると、大統領選後に治安当局との衝突でデモ参加者の25人が死亡し、野党関係者を含む2000人以上が拘束された。治安当局がデモ参加者の自宅に印を付けた後に、テロ関与などの容疑で拘束しているとの現地からの報道もある。
マドゥロ氏の強権の背景には、軍部の根強い支持がある。ただし、同氏の支持率は、6年前の再選時に比較しても圧倒的に低い。弾圧にもかかわらず、反政府デモが広がった場合を含めて、ベネズエラ情勢は予測できない状況が続きそうだ。