
【サンパウロ綾村悟】独裁的な反米左派政権が四半世紀にわたって続いてきた南米ベネズエラで28日、大統領選挙の投票が始まった。野党連合候補の元アルゼンチン大使エドムンド・ゴンサレス氏(74)が、世論調査で60%以上の支持率を獲得して、現職のマドゥロ大統領(61)に大きく差をつけている。ただし、3選を目指すマドゥロ大統領が、政権を死守するために強権を発動したり不正行為を行う可能性が指摘されており、国内情勢が不安定化する恐れも指摘されている。
19日に発表された最新の世論調査(エルコン・コンサルタント)によると、ゴンサレス氏の支持率63・3%に対して、マドゥロ氏は29・8%と大きく差をつけられている。先月の世論調査では、マドゥロ氏の支持率が1桁台にとどまることもあった。
ゴンサレス氏は、マドゥロ政権に出馬を禁止された野党指導者マリア・コリナ・マチャド元下院議員の代替候補だ。政治経験もなく、選挙前にはほぼ無名の候補だったが、反大統領派の顔ともいえるマチャド氏の全面支援を受けて支持を拡大した。外交官出身の調整力を生かし「(マドゥロ政権との)対話と和解による民主主義の実現」を訴える姿勢も、独裁・強権的な政治体制と政治対立に疲れた有権者の支持につながった。
一方、マドゥロ氏は、社会保障制度の維持など支持基盤でもある貧困層への訴え掛けを続けると同時に、選挙戦終盤に内戦の恐れや強権の発動をほのめかす発言を行うなど、政権維持のために武力行使を含むいかなる手段も問わない意向さえ示唆した。最高裁や選挙管理委員会もマドゥロ氏の意向は無視できない。
ブラジルなど米州諸国が選挙監視団を派遣しているが、27日には、選挙監視の目的でベネズエラ入りを目指していたメキシコのフォックス元大統領らを乗せた飛行機が、ベネズエラ当局の離陸拒否でパナマに足止めをされた。
ベネズエラでは、1998年の大統領選挙でチャベス氏が当選して以来、独裁的な反米左派政権が続いてきた。経済政策の失敗などで国内経済は破綻、食料や医薬品が常に不足する中で停電も多発、シリア難民にも匹敵する500万人以上の難民を出すほどの状況だ。
近年のベネズエラは、中南米における反米勢力の橋頭堡(きょうとうほ)的な役割も果たしており、イランやロシア、中国とのつながりも深い。ロシアの戦略爆撃機やイラン海軍の旗艦が同国を訪問するなど軍事的な協力関係もあり、マドゥロ氏の退陣が実現すれば中南米での政治バランスが大きく変わる節目になる。