
南米ベネズエラで28日に大統領選挙が実施される。10人が立候補する乱戦だが、実質的に3選を目指す現職の反米左派マドゥロ大統領(61)と、野党連合から出馬するエドムンド・ゴンサレス元駐アルゼンチン大使(74)による一騎打ちとなっている。ゴンサレス氏が世論調査で優位に立つが、政権側は野党関係者の拘束など政治圧力を強めており、投開票時の公平性を含めて開票結果が確定するまでは予断を許さない状況となっている。(サンパウロ綾村悟)
ベネズエラ大統領選挙に関する最新の世論調査は、投開票が予定通りかつ透明性を保って実施された場合、四半世紀続いた南米ベネズエラの反米左派政権が終焉(しゅうえん)を告げることを示している。
7月4日に発表されたメガナリシス社の世論調査では、ゴンサレス氏の支持率は71・9%と、マドゥロ大統領の支持率12・1%を圧倒している。
11日に発表されたモア・コンサルティング社の世論調査でも、ゴンサレス氏の支持率は55・2%とマドゥロ氏の31%を大きく引き離している。
本来、野党連合は、マドゥロ政権に対する厳しい批判で有権者の支持を集める、マリア・コリナ・マチャド元国会議員(56)を統一候補として擁立する予定だった。
しかし、政権支持率が低下する中でマチャド氏との直接対決を避けたいマドゥロ政権は昨年6月、マチャド氏が国益に反した行為を行ったとして公職追放15年の処分を科した。今年1月、最高裁はこの処分を基にマチャド氏の大統領選出馬を禁止した。
その後も、マドゥロ政権による反大統領派への弾圧は続き、4月には少なくとも5人の野党候補が大統領選挙への出馬を禁止された他、テロ容疑などで野党関係者が拘束された。
最終的に、野党連合は元外交官のゴンサレス氏を統一候補として擁立した。外務省出身で、アルゼンチンやアルジェリアの大使としての経歴はあるものの、大統領候補になるまで、政治家としては無名に近かった。
ところが、主要野党候補の出馬を封じたマドゥロ政権の思惑は外れ、ゴンサレス氏が出馬を決めた4月以降、世論調査は一貫して同氏の優勢を伝えている。
ベネズエラでは、1999年の故ウゴ・チャベス元大統領の就任以後、四半世紀にわたって独裁的な反米左派政権が続いてきた。経済政策の失敗や米国の経済制裁などで経済は破綻し、シリア、ウクライナ難民にも匹敵する500万人以上の経済(政治)難民を生んでいる。選挙の顔となって国民の支持を集めるマチャド氏の支援に加えて、国民の不満がゴンサレス氏の支持の一部となっていることは間違いない。
そのゴンサレス氏だが、欧米メディアに対するインタビューでは、マドゥロ政権との対話路線を強調している。
同氏は、大統領選挙で勝利した場合、「平和的かつ民主的な政権移行」を実現したいと主張、スムーズな政権移行をマドゥロ氏との協議の上で実現したいとしている。マドゥロ氏に対する厳しい批判を行うマチャド氏とは対極的だが、野党の顔でもあるマチャド氏への敬意も明らかにしている。
また、大統領選出馬に政治的な野心はなく、ベネズエラの民主主義移行に貢献したいとの意向を強調、当選した際には、通貨価値の安定や外資誘致に伴う経済成長を実現し、政治犯の釈放を実現したいと言明している。
一方、反大統領派への弾圧を続けてきたマドゥロ大統領が、権力維持のために投開票で不正を行ったり、ゴンサレス氏の票を無効にする可能性もある。マドゥロ政権は、昨年10月にカリブ海のバルバドスで、公正な民主選挙の実現で反大統領派と合意した後も、マチャド氏の出馬妨害などで合意を反故(ほご)にしている。
こうした中、米国のトランプ前政権関係者らからは、「マドゥロ氏に恩赦を与えるのも一つの可能性だ」との発言も出ており、投開票の結果がゴンサレス氏に有利に働いた場合には、欧米や南米諸国からの支援やゴンサレス陣営の対話強調なども、平和的な政権交代には欠かせないものとなりそうだ。