トップ国際中南米世界最大の湿原で過去最悪の火災 干ばつと熱波原因 ブラジル・パンタナル

世界最大の湿原で過去最悪の火災 干ばつと熱波原因 ブラジル・パンタナル

消火作業を行う消防士=CBMS(マトグロソドスル州当局)
ユネスコ(UNESCO)の世界自然遺産にも登録されているブラジルの「パンタナル湿原」が過去最悪ペースの火災に脅かされている。ブラジル各地で異常気象が観測される中、パンタナルがあるブラジル中西部では、昨年末から深刻な干ばつ(少雨)と熱波が続いているためだ。数千種類もの世界的にも貴重な動植物相に加えて、大量の二酸化炭素を吸収することで地域の気候安定にも寄与している世界有数の湿原の保護が急がれている。(サンパウロ綾村悟)

パンタナルは、南米の中央、ブラジルの南西部に位置する世界最大の湿原だ。絶滅危惧種のスミレコンゴウインコやジャガー、カワウソなど世界有数の数千種類にも及ぶ動植物相を持ち、「生命の楽園」とも呼ばれる。

その一部は、パラグアイやボリビアにもまたがり、全面積は日本の本州の総面積にも匹敵する19万平方㌔にも及ぶ。

そのパンタナルで2020年、史上最悪の火災(森林火災)が発生した。半世紀ぶりとも言われた深刻な干ばつがその原因だが、この年に消失したパンタナルの土地は、北海道の全面積(約8万3千平方㌔)の半分に相当する4万平方㌔にも及んだ。

英サイエンティフィック・リポートの報告書によると、約1700万もの動物(爬虫(はちゅう)類・鳥類・霊長類を含む)が死に、「自然環境の回復にかかる時間は想像もできない(現地専門家)」とまで言われた。

火災の多くは、農場の開発などを目的とした違法な「野焼き」が原因だ。干ばつによる異常乾燥に加えて熱波と突風による延焼が広がり、ジャガーの生息地として知られる州立公園はその8割が消失したほどだった。

歴史的な火災によるダメージが今も残るパンタナルだが、昨年末から熱波と干ばつが再び同地を襲っている。エルニーニョが原因とみられる熱波がブラジル中西部と南東部を襲い、リオデジャネイロなどで観測史上最高気温が次々と計測されたのだ。

干ばつと熱波の影響は今年に入ってからも続いている。ブラジル国立宇宙研究所(INPE)によると、今年に入ってから6月20日までに発生した火災は、2628件と過去最悪だった20年を超えるスピードで発生しており、本格的な乾期が訪れる7月を前に、関係当局は警戒を強めている。

特に、今年は雨期の降雨量が記録的に少なく、例年であれば洪水によって水で満たされていた場所までが乾燥していることで延焼が拡大する可能性が高いという。

パンタナルで懸念されるのは火災だけではない。記録的な火災が発生した翌年の21年には、湿原地帯のパンタナルで前例のない「砂嵐」が発生し、周辺都市に甚大な被害をもたらした。

高さ数千㍍と幅数十㌔に及ぶ砂嵐が風速30㍍以上の強風と共にパンタナル周辺の50以上の都市を襲ったのだ。砂嵐は、異常乾燥と火災によって砂漠化した農地や火災の焼け跡などから発生したものとみられている。

一方、パンタナルを構成している湿原は、面積比で熱帯雨林を大きく超える二酸化炭素を地中に吸収し、温暖化や気候変動を防ぐための重要な役割を果たしていることが分かっている。パンタナルのサバンナ化は、砂嵐などの異常気象だけでなく、地域の気候安定をも崩しかねない。

こうした中、ブラジルの気候変動研究の専門家からは「(エルニーニョの影響に加えて)地域的な気候変動と農業開発がパンタナルの火災につながっている」との指摘が上がっている。パンタナル湿原の「サバンナ化」は着実に進んでおり、開発に厳しい規制を加え、植林などの再生事業を行わない限り、干ばつや砂嵐のような異常気象は今後も続くというのだ。

加えて、「生命の楽園」としての存在も危機に直面しているのが現実だ。生物学の専門家は、パンタナルで今後も深刻な火災が続けば、絶滅危惧種が生存できる場所がなくなり、「種の存続」さえもが脅かされると警告を発している。

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »