保守政権誕生1カ月 アルゼンチン 経済再生へ大胆な改革案 

米州の政治潮流に影響も

2023年 12 月10日、ブエノスアイレス にある国会議事堂でアルゼンチン大 統領に就任したハビエル・ミレイ氏 (EPA時事)

アルゼンチンに保守政権が誕生して1カ月が経(た)った。トランプ前米大統領を信奉し、リバタリアン(自由至上主義者)として知られるハビエル・ミレイ大統領(53)は、選挙中は中央銀行の解体や経済のドル化など過激な発言で波紋を広げた。当選後は省庁のスリム化や民営化の推進など、財政支出削減を中心とした正攻法で経済再生に挑んでいる。多くの国民に「痛み」を強いる改革だけに、少数与党のミレイ氏とっては厳しい政権運営となるが、支持率を維持することができれば、米州での保守派の巻き返しに影響を与える存在となりそうだ。(サンパウロ・綾村 悟)

約100年前の1929年、農牧業の発展と移民・外貨の呼び込みに成功したアルゼンチンは、欧米に並ぶ世界5位の経済大国として南米先進国の座を謳歌(おうか)していた。

1908年に開業し、パリのオペラ座と並ぶ「世界3大劇場」の一つとして世界から訪れる人々を魅了するブエノスアイレスのコロン劇場は、世界の富が集まっていた当時の繁栄を今に伝えている。

そのアルゼンチンが経済大国から脱落したのは、工業化に乗り遅れたことが大きい。また、軍政下での政治混乱やフォークランド紛争の敗戦、2001年の債務不履行による金融破綻、さらには約20年間の左派政権下で続いたバラマキ政策などが深刻な経済停滞へとつながった。

1964年に国内総生産(GDP)で世界9位になった後は、トップ10から陥落、2023年の名目GDPは台湾とポーランドに次ぐ世界23位に留まっている。

一方、世界有数の農産物や鉱物などの輸出資源や南米トップレベルの高等教育基盤を鑑みれば、アルゼンチンは今もブラジルと並び、中南米有数の大国として影響力を行使でき得る国でもある。

ただ、アルゼンチンの現状は非常に厳しい。21年から3年近く続いている干ばつは、稼ぎ頭の穀物輸出に深刻な打撃を与え、12月のインフレ率は200%近くに達している。貧困率は40%近くにも及んでおり、昨年第3四半期の成長率はマイナスを記録して景気後退(リセッション)に突入した。450億ドルに及ぶ国際通貨基金(IMF)からの借り入れ金返済も抱えており、投資家や金融界の信頼を得るためにも債務不履行だけは避けなければならない状況だ。

親米保守のミレイ大統領は選挙期間中、中銀解体や通貨ペソの廃止と経済のドル化を公約とするなど過激な発言を繰り返した。「反共」の姿勢から中国との関係凍結なども示唆していたが、当選後は経済・外交両面で過激な発言を抑えている。

経済面では、12月10日の就任演説で「ショック療法が必要」と断言。カブト経済相がハイパーインフレへの突入を未然に防ぐために「チェーンソー計画」と名付けた緊急対応法案を発表した。通貨ペソの大幅な切り下げに始まり、公共事業の入札停止、省庁のスリム化や国営企業の民営化、補助金削減も含めた大胆かつ広範な法案だ。

IMFや株式・債権市場は肯定的に受け取っており、アルゼンチンの株価指数(メルバル)は、過去5年での最高額を更新し続けている。

欧米の金融関係者は、経済政策が軌道に乗れば、インフレは今年後半には1桁台にまで落ち着く可能性が高いと指摘する。一方、左派政権の基盤となってきた労働組合はミレイ政権の改革に強い抵抗を示しており、今月24日には同国最大の労組の一つ「CGT」が大規模なゼネストを予定している。

少数与党を率いるミレイ氏は、世論の支持を背景に国会対策と労組対応を乗り切る必要がある。

ミレイ氏は、トランプ氏を信奉し、大統領就任式ではブラジルのボルソナロ前大統領やウクライナのゼレンスキー大統領らを歓待した。中露がグローバルサウスの取り込みと影響力拡大に利用している新興5カ国(BRICS)への新規加盟も断るなど、親米保守としてのスタンスを鮮明にしている。

近年、中国とロシアが影響力を強めてきた中南米で保守政権が誕生した意義は大きい。経済政策が軌道に乗って存在感を高めれば、米州での保守回帰の転換点となる可能性も秘めている。

spot_img
Google Translate »