
【サンパウロ綾村悟】在任中に関与した人権侵害で実刑判決を受けて服役していた南米ペルーのアルベルト・フジモリ元大統領(85)が6日、首都リマ郊外にある拘置施設から5年ぶりに釈放された。
同国の憲法裁判所は5日、フジモリ氏が高齢で健康状態が悪化していることなどを理由に人道的見地からの恩赦を認め、ペルー国家刑務局(INPE)に釈放を命じていた。
酸素ボンベを着けたフジモリ氏は、拘置施設の建物の出口で長女ケイコ氏(48)や次男ケンジ氏(43)、ケイコ氏が党首を務める中道右派政党「フエルサ・ポプラル」の関係者らに笑顔で出迎えられた。
釈放の様子はペルー全土に生中継で伝えられた。フジモリ氏を乗せた車は、マスコミや喜ぶ市民らによって取り囲まれ、騒然とした中をケイコ氏の自宅へと向かった。当面は、ケイコ氏の自宅で療養する予定だという。
フジモリ氏は、日系移民(熊本出身)の両親の元にリマで1938年に生まれた。国立大学の学長を経た後、90年の大統領選挙に出馬して当選し、日系初の大統領に就任した。
フジモリ氏は大統領として、ハイパーインフレを抑えて経済を立て直し、極左武装ゲリラが引き起こすテロによって混乱していた治安を改善した。96年に発生した左翼ゲリラによる日本大使公邸人質事件では、特殊部隊による突入を判断して多くの人質を救出した。
一方、フジモリ氏の政治手法に関しては強権的と批判されることも多く、現在もペルー国内でのフジモリ氏に対する評価は二分している。
その後、フジモリ氏は2010年に国軍部隊が左派ゲリラを取り締まる中で市民を殺害した事件に関与したとして、禁錮25年の実刑判決を受けた。
17年には、健康状態の悪化などを理由に大統領令による恩赦が与えられて釈放されたが、最高裁判所の命令によって恩赦が取り消されて19年に再度収監された。
22年3月には、憲法裁判所がフジモリ氏の弁護団による人身保護請求を認めて恩赦を行う判断を下していたが、人権侵害事件の被害者家族からの請求を受けた米州人権裁判所(IACHR)が釈放差し止めを求め、ペルー政府も要請を受け入れていた。