
中南米で干ばつによる被害が相次いでいる。ブラジルのアマゾン熱帯雨林ではアマゾン川が干上がり、アルゼンチンでは農作物の不作による経済危機に直面している。さらに、中米のパナマでは、世界の海運の要となっているパナマ運河に影響が出るなど影響は広範囲だ。地球温暖化で干ばつが常態化する恐れもあり、森林再生などを通じた温暖化ガス抑制が欠かせない。(サンパウロ・綾村 悟)
国立環境研究所と東京大学、韓国科学技術院で構成された国際研究チームは昨年11月、地球温暖化の影響により、今世紀半ばにも世界複数の地域で干ばつが「常態化」することを世界で初めて予測して衝撃を与えた。
予測モデルでは、南米南部や地中海沿岸において、今世紀前半から半ばごろまでに過去最大級の干ばつが5年以上続く可能性が指摘されている。奇(く)しくも、アルゼンチンとスペインでは、昨年から歴史的な干ばつの襲来を受けており、アルゼンチンでは農産物輸出の不振が記録的な通貨安やインフレを引き起こした。
また、ブラジルでは世界最大のアマゾン熱帯雨林が歴史的な干ばつに襲われている。アマゾン川の支流が干上がり、絶滅危惧種のアマゾンカワイルカや魚類などの大量死を招いた。50万人の生活に被害が出ており、アマゾナス州では非常事態宣言が出された。
アマゾンでは、2005年にも記録的な干ばつが発生した。当時、海洋開発研究機構が運用する「地球シミュレーター」は、温暖化による気候変動で100年後にアマゾン地域に巨大な砂漠が誕生するという衝撃的な予測を発表していた。
地球温暖化の影響を受けるのはブラジルやアルゼンチンだけではない。フロリダ工科大学の研究チームは04年、今世紀半ばにもペルーやボリビアの一部地域で砂漠化を伴う壊滅的な干ばつが発生する可能性があると予測した。
さらに、中米のパナマでは、干ばつの影響で高低差を利用するパナマ運河の運用に欠かせない人造湖の水位が低下し、運行制限の長期化が輸送価格の高騰化につながりかねない状況だ。
これらの予測モデルは、気候変動が干ばつという形で中南米各国に襲い掛かる近未来を警告している。
ブラジルの研究チームは今年1月、アマゾン熱帯雨林の38%が干ばつと違法伐採の影響で劣化しており、森林としての機能を失いつつあると公表した。歴史生態学の研究者は、過去の温暖化の事例に対する研究から、森林やサバンナの砂漠化は、ある時点を境に一気に進んだと指摘している。
アマゾン熱帯雨林は、年間15億トンともいわれる二酸化炭素を吸収し、「地球の二酸化炭素タンク」としての役割を果たしてきた。しかし、干ばつと違法伐採によりその機能は年々弱まっている。干ばつで枯れた木は、今後数年で数十億トンもの二酸化炭素を排出する。
一方、専門家によると、二酸化炭素やメタンなど温室効果ガスの抑制によって干ばつの期間などを短縮することは可能だという。その一つが植林をはじめとした森林再生だ。
ブラジルは、15年に採択された温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」で、南米で唯一、森林の再生を公約とした。現在、ブラジルの多くの企業やNGO、個人が森林再生に取り組んでいるが、よく知られる森林再生プロジェクトの一つが、著名写真家のセバスチャン・サルガド氏とその妻で環境保護活動家のレリア・ワニック・サルガド氏が運営するNGO「インスティテュート・テーハ」だ。
サルガド夫妻は、1990年代からブラジル南東部ミナスジェライス州にあるドセ渓谷の大西洋岸森林の再生に取り組み、これまでに250万本の植林を行い、同地域の森林再生に成功した。レリア氏は今年7月、その功績により、ポルトガル・リスボンに本部があるカルースト・グルベンキアン財団の「第4回グルベンキアン人道賞」を受賞している。
アマゾン熱帯雨林は、地球全体の気候安定に死活的に重要な存在だ。違法伐採の抑制と植林などを通じて熱帯雨林再生の道筋をつくることができるか、時間との戦いになっている。