トップ国際中南米ブラジル大統領、アマゾン保護政策を発表 海底油田開発には賛成か ダブルスタンダード批判も

ブラジル大統領、アマゾン保護政策を発表 海底油田開発には賛成か ダブルスタンダード批判も

ブラジルのルラ大統領=1日、ブラジリア (AFP時事)

ブラジルの左派ルラ大統領は今月5日、アマゾン熱帯雨林の保護・規制強化策を発表した。ルラ氏は昨年10月の大統領選挙で、アマゾン熱帯雨林の保護と環境対策を最優先政策の一つに掲げ、ボルソナロ前保守政権との違いを強く打ち出していた。一方で、ブラジルで最も豊富な自然が残る北東部アマパ州では、膨大な埋蔵量が見込まれる海底油田の利権を巡って与党内から開発を求める声が上がるなど、「ダブルスタンダード」ともいえる動きが見られる。(サンパウロ・綾村 悟)

世界最大の熱帯雨林として知られるアマゾン熱帯雨林。ブラジルを中心に周辺7カ国にまたがり、世界の熱帯雨林の半分を占める。総面積は550万平方㌔で、膨大な量の二酸化炭素を森林内に吸収することから、気候変動対策のシンボル的な存在でもある。

だが、同熱帯雨林は、数十年にわたる乱開発によって機能を失いつつある。二酸化炭素の吸収量が激減する「サバンナ化」への瀬戸際とも言われており、その保護が急がれている。

ルラ氏は今月5日、「気候変動対策でブラジルは世界のリーダーシップを取る」と宣言し、2030年までにアマゾン熱帯雨林の違法伐採を実質ゼロにする規制強化策を発表した。

新たに東京都全面積の13倍以上に相当する300万㌶の保護区をアマゾン内に設定するほか、違法伐採阻止に向けて人工衛星と連邦警察による空と陸からの監視活動を大幅に強化するという。

ルラ氏は「膨大な温室効果ガスを排出している先進・富裕各国にも責任の一端を果たしてほしい」と主張し、資金面での協力を求めることも忘れなかった。

ブラジルでは、25年にアマゾン川の河口にある北東部ベレンで、国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)が開催される。ルラ氏が国際政治で存在感をアピールする絶好の機会となるはずだ。

ただし、環境対策を強く打ち出すルラ政権にアキレス腱(けん)がないわけではない。その一つが、北東部アマパ州沖の海底油田開発だ。

アマゾン川の下流に位置するアマパ州は、州面積の7割近くが自然保護区などに指定されるなど、ブラジルで最も自然が残る場所として知られる。

そのアマパ州の沖合で近年、海底油田が確認された。その推定埋蔵量は、ブラジルをカタールやカザフスタンに匹敵する原油産出国に押し上げるほどだという。

アマパ州と国境を接するガイアナとスリナムは近年、海底油田の開発で潤っている。ガイアナは27年までに、国民1人当たりの石油産出量で世界一になるといわれているほどだ。

ガイアナと同じことが、アマパ州でも起きる可能性が高い。ブラジルで最も貧困率が高い州の一つに、膨大な原油による税収が入ることになるからだ。

しかし、国営石油公社ペトロブラスによる油田の探査許可申請は、環境省傘下のブラジル環境・再生可能天然資源院(IBAMA)によって拒否された。試掘に失敗した場合、環境・生態系への汚染が懸念されるというのがその理由だ。

アマゾン川の河口には、「海洋生物学の奇跡」とまで言われるサンゴ礁の「アマゾン礁」がある。12年にその存在が発見され、16年に環境保護団体グリーンピースの調査で沖合9500㌔にも及ぶ新種の生物にあふれた生物礁の存在が明らかにされた。

IBAMAやグリーンピースは、10年以上も前から、この海域での油田開発に反対してきた。マリナ・シルバ環境相も開発には頑迷に反対している。

一方で、アマパ州に議席を持つ連立与党内の議員からは開発やむなしとの声が上がっており、ルラ氏も貧困対策など他の政策に協力を求める兼ね合いから、開発推進の声を無視できない。

ルラ氏は、IBAMAによる探査申請の拒否を受けて、「探査現場はサンゴ礁から離れており、環境破壊にはつながらないだろう」と言明した。環境保護団体からは、ルラ氏の発言を批判する声も上がっており、アマゾン保護を強く訴えるルラ政権の「ダブルスタンダード」と批判されても仕方のない状況となっている。

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