トップ国際中南米支持基盤の貧困層支援を拡充 ブラジル・ルラ政権 景気後退で財政悪化に懸念

支持基盤の貧困層支援を拡充 ブラジル・ルラ政権 景気後退で財政悪化に懸念

中銀の独立性脅かす発言も

1月11日、ブラジルの首都ブラジリアで、国会議員との会議に臨むルラ大統領(AFP時事)

ブラジルの左派ルラ大統領が、選挙公約の目玉の一つである「貧困層支援」を拡充させている。ルラ氏の支持率は決して高くないが、1月の連邦議会襲撃事件に端を発したボルソナロ前大統領とその支持者らに対する司法の追及や批判報道が続き、ルラ政権には追い風が吹いている。しかし、一方では、「バラマキ政策」による財政悪化や増税、中銀の独立性を侵しかねない政権内からの発言等が懸念材料となっている。(サンパウロ・綾村 悟)

ルラ氏は2日、低所得者向けの現金給付制度「ボルサ・ファミリア」の支給額を拡充すると発表した。支給額自体は、保守派のボルソナロ前政権が行っていた「アウシリオ・ブラジル」と同額の600レアル(約1万6000円)だが、妊婦や子供がいる世帯には増額を行うなど、手厚い制度となっている。基本支給額の600レアルは、最低給料1302レアルの約半額だ。

給付対象は約2100万世帯で、ブラジルの総世帯約4770万世帯(2020年調査)の4割以上にも及ぶ。低所得者層を支持基盤とするルラ氏にとって、貧困家庭の支援は、アマゾン熱帯雨林や先住民の保護、ジェンダー平等推進など欠かせない政策の一つだ。

ただし、ボルサ・ファミリアには、今年度の予算だけで1750億レアル(約4兆7000億円)もの膨大な財政出動が見込まれており、16年に導入された歳出制限法の改正が欠かせない。ブラジルでは、憲法で国家予算の歳出上限が決められている。

そもそも、格差解消を目的の一つとしたボルサ・ファミリアは、世界的な資源ブームの中でブラジルが驚異的な経済成長を遂げたルラ第1次政権(03~11年)時に導入されたものだ。当時のルラ政権は、資源輸出で得た財政収入を貧困層支援につぎ込み、3000万人以上の貧困層を中間層に押し上げ、消費ブームを巻き起こした。政権支持率80%という記録的な数字を記録したのはこの時だ。

ただし、当時と現在では、ブラジルを取り巻く経済状況が大きく変わっている。世界経済は、欧米など主要国を中心として減速が懸念されている。ブラジルも昨年10~12月の経済成長率が6期ぶりのマイナスを記録するなど、景気後退に直面している。

このような状況で財政支出を大幅に拡大すれば、財政悪化は免れない。富裕税を含む各種増税が検討されているが、直近の各種世論調査では、ルラ政権の支持率は51~56%にとどまっている。不支持率も36%に達しており、増税には慎重にならざるを得ないのが現状だ。

一方、ルラ政権による中央銀行や国営石油公社に対する言動が問題となっている。ブラジル中央銀行は、ボルソナロ前政権時に独立性が強化され、政府による介入が難しくなった。中銀の独立強化は世界的な流れでもある。

現在、中央銀行はインフレ対策で基本金利を13・75%としているが、ルラ氏はこれが経済成長を阻害していると主張。「選挙の洗礼も受けていない人々が物事を決めている」などと批判し、独立性を損ねようとしている。

石油公社に対しては、前政権が進めていた民営化を白紙化しただけでなく、企業利益を国内投資に限定するように求めるなど経営介入を行っており、経済界から懸念が出ている。

ルラ氏が所属する左派労働党は、前回の政権担当時に官房長官や多くの議員が石油公社絡みの汚職で逮捕された。各省庁の拡大傾向など、ルラ政権が目指す「大きな政府」は汚職の温床となりかねない。

こうした中、ボルソナロ前大統領が、滞在先の米国で復活の兆しを見せつつある。保守派の集会に参加して熱烈な歓迎を受けており、その中で次期大統領選挙に出馬して再選を目指す可能性を示唆した。

18年のブラジル大統領選挙で南米に保守回帰の大きな波を生み出したボルソナロ氏だ。同氏は3月中に帰国するとの報道も出ており、ルラ政権にとっては、熱烈な支持者が多いボルソナロ派が盛り返すことだけは避けたいのが本音だ。

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