【サンパウロ綾村悟】ウルグアイを訪問しているブラジルのルラ大統領は25日、南米南部共同市場(メルコスル)と中国による自由貿易協定(FTA)交渉開始を提案した。
メルコスルは、ブラジル、ウルグアイ、アルゼンチン、パラグアイの南米4カ国が参加している関税同盟。参加国はいずれも世界的に重要な農業輸出大国で、南米全体の国内総生産(GDP)の約7割を占める。
メルコスルでは、加盟国による単独での域外交渉を禁止しているが、ウルグアイは昨年から中国とのFTA交渉を進めているほか、環太平洋連携協定(TPP)への加盟も目指している。今回のルラ氏の提案は、メルコスル内の不協和音を防ぐためとみられている。
一方、メルコスルには、南米で唯一、中国と外交関係を結んでいないパラグアイも加盟している。今年4月のパラグアイ大統領選挙では、主要左派候補が台湾との外交関係断絶と中国との国交締結を公約に掲げている。
ルラ氏は中国とのFTA交渉について、現在停滞しているメルコスルと欧州連合(EU)のFTA合意後になると説明。EUとのFTAは、ボルソナロ前政権のアマゾン熱帯雨林に対する政策に不満を抱いたEU側が批准手続きを停止していた。ルラ政権は、アマゾン保護などの環境問題改善で積極的に動いており、EU側が態度を軟化させる可能性は高い。
今月1日に就任したばかりのルラ氏だが、23日にはアルゼンチンとの首脳会談で新たな貿易用の共通通貨「スル」の導入協議を進めることを発表。ルラ氏は、共通通貨にメルコスルや他の南米諸国の参加も促しており、外交面で存在感を強めている。