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今月1日に南米の大国ブラジルで、第2次ルラ政権(労働党・左派)が発足した。ルラ大統領が貧困支援や民営化事業白紙化を強調する一方、シルバ環境・気候変動相は国家レベルでの気候変動対策を発表するなど、ボルソナロ前政権からの政策転換を強調する船出となった。ただ、大統領選の無効を主張する前大統領の支持者ら約4千人が暴徒化して連邦議会や大統領府などを襲撃する事件が8日に発生。ルラ氏が異例とも言える「連邦介入令」を出して治安強化を図るなど、国内は混乱の中にある。(サンパウロ・綾村 悟)
ルラ氏は第1次政権時(2003~10年)に、資源ブームによる経済成長と夏季五輪誘致、貧困層の引き上げなどで80%の支持率を獲得するなど、当時のオバマ米大統領から「世界で最も人気のある政治家」とまで言われた。
ルラ氏の就任式は1日に首都ブラジリアで行われ、大統領官邸周辺は労働党のイメージカラーである赤色のシャツを着た支持者で埋め尽くされた。ルラ氏は演説中、貧困が増加したブラジルの現状を憂い、感極まって涙する一幕も。
18年に汚職で実刑判決を受けて収監され、同年の大統領選挙への出馬を断念したことを思えば、実に劇的なカムバックである。
ルラ氏は就任後すぐに、ボルソナロ前政権の政策を白紙化し、新たな政策を次々と打ち出した。路線の大転換だ。
ボルソナロ前政権が進めていた国営企業の民営化政策を中止し、石油公社ペトロブラスや郵便電信公社の民営化に対する調査もすべて停止させた。
ただ、民営化中止は投資家の懸念を招いた。大手国営会社8社の株価は暴落し、ルラ政権発足後の1週間で150億レアル(約3750億円)を超える資産価値が吹き飛んだ。
環境対策も大きく変わった。環境保護活動家として知られるシルバ環境・気候変動相は4日、「ブラジルが環境保護で世界をリードする」と強調し、大統領直属機関として、国家気候変動局を創設することを発表した。ルラ氏が公約としてきた「アマゾン熱帯雨林破壊をゼロにする」という目標からさらに踏み込んだ内容だ。
ただ、世界有数の農業輸出大国となったブラジルが持続可能な経済成長を実現する道筋については、シルバ氏は明確な回答を避けている。
一方、ルラ政権の行方に暗雲が漂う衝撃的な事件が発生した。8日に起きたボルソナロ氏支持者らによる連邦議会、大統領府、最高裁判所への襲撃事件だ。
約4千人の暴徒化した支持者らは、貴重な歴史的遺物を含む多くのものを破壊し、逮捕者は9日時点で1500人に及んでいる。
襲撃事件に対しては、ボルソナロ氏も滞在先の米フロリダ州から「法を逸脱すべきではない」と批判。ボルソナロ氏に投票した有権者からも「一線を越えてしまった」と懸念する声が出ている。
裁判所と治安当局は、ボルソナロ氏の支持者らに対して、軍司令部前でのキャンプ撤収を求めるなど厳しい姿勢で臨んでいる。ルラ氏の支持者も、サンパウロなど各都市で「民主主義を守る」デモを繰り広げている。
一方、今回の襲撃事件は、政府当局も予期できないものだったとされている。ルラ政権誕生に反発した保守層の動きを読み切れなかった可能性がある。
ブラジル社会は、第1次ルラ政権当時よりもはっきりと保守化している。ルラ氏が80%もの支持を得た時代からは、政権を取り巻く環境は大きく変わっている。
極右と批判されがちなボルソナロ氏に対して、昨年の大統領選挙で約49%もの有権者が票を投じた事実は、ルラ政権の対応次第では、これまで以上の混乱が生じる懸念を抱かせている。