
欧州連合(EU)は今月初め、世界初となる森林伐採地からの農産物の輸入禁止を盛り込んだ新たな法案に合意した。法案が主なターゲットとしているのは、世界最大の熱帯雨林として知られるアマゾン熱帯雨林の違法伐採だ。ブラジル国立宇宙研究所(INPE)の報告では、1988年からこれまでの間に、日本の国土面積を超える42万平方㌔ものアマゾン熱帯雨林が消失した。ここ数年が同熱帯雨林の「サバンナ化」を避ける最後の機会だと強調する専門家もいるほどだ。(サンパウロ・綾村 悟)
ブラジルのアマゾン熱帯雨林では、2021年8月から22年7月までの1年間で、サッカー・ワールドカップ(W杯)開催国カタールの総国土面積(1万1571平方㌔)に相当する1万1568平方㌔の森林が消失した。前年同期比では11・3%減少したが、それでも東京都の総面積の5倍以上もの貴重な森林が消えた。

ブラジルを中心として、南米9カ国にまたがるアマゾン熱帯雨林。地球上の全熱帯雨林の約半分に相当し、膨大な量の炭素を貯蔵するなど、大気の調節や気候変動抑制に大きく貢献している。
熱帯雨林消失の主な原因は、新たな農牧場や鉱山を作り出すための違法伐採と焼き畑による森林火災だ。
世界有数の農産物輸出国に成長したブラジルには、世界中から多くの国々や企業が買い付けに来る。今や、ブラジルは世界にとって欠かせない食料供給国となっており、特にウクライナ戦争などの影響で世界的に食料価格が高騰している現在、違法伐採が生み出す新たな土地はまさに金の卵を生む鶏のようなものだ。
こうした中、EUは6日、違法伐採など森林伐採後の土地が生産した農産物の輸入を禁止する法案に合意した。20年12月30日以降の森林伐採地に適用される。法案は非常に厳しいもので、たとえ許可を得て森林を伐採したとしても、その土地で生産された大豆などの指定農産物が輸入禁止対象となるものだ。
すでに、一部の欧州企業や環境保護団体は、輸入大豆や木材などの生産地を詳細に追跡できるシステムを開発している。ブラジルの農産物にとって世界第2位の市場である欧州で法案が実際に導入されれば、違法伐採の抑止も含めた大きな波及効果が期待される。
「森林破壊に対抗する歴史的な法案」とまで言われる今回の法案に関しては、ブラジルのメディアも大きく扱っており、環境保護政策に肯定的なメディアや世論は、おおむね歓迎の意向を示している。
ただし、今回の法案は、あくまでもアマゾン熱帯雨林や大西洋岸森林などの「森林地帯」に限定されており、「カンポ・セラード」と呼ばれるブラジル中央高原の広大なサバンナ地帯は対象とされていない。アマゾン熱帯雨林に隣接するセラードでは、世界的な大豆や牛肉の需要増に対応すべく、違法伐採による農牧地の開発が拡大、昨年だけで8500平方㌔以上の森林が消失している。
また、現在、ブラジル農産物の最大の取引先は中国だ。中国は世界各地で、その豊富な資金力を背景に食料の買い付けを拡大しており、欧州が輸入を禁止した農産物がそのまま中国に輸出される可能性もある。
それでも、EUが世界で初めて森林伐採地からの農産物輸入禁止に乗り出した意義は大きい。
来年1月1日に就任する左派労働党のルラ次期大統領は、エジプトで開催された国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)でアマゾン熱帯雨林の消失量を実質ゼロにすることを宣言、違法伐採などを厳しく取り締まることを明言して称賛を集めた。
「(森林消失の影響による)アマゾン熱帯雨林のサバンナ化は引き返せない所まで来ている」と警告する専門家は少なくない。アマゾン熱帯雨林がサバンナ化した場合、異常気象の増加や降雨減少による農産物の生産減少など、その影響は計り知れない。
ルラ氏は、アマゾン熱帯雨林をはじめとする森林保護には、アマゾン地域で生活する2500万人の経済支援など富裕国からの資金援助が欠かせないとも主張している。同氏は、COP30を25年にブラジルのアマゾンで開催することを提案しており、国際社会の協力を強く求めていくことが予想されている。