スリランカ、新大統領が就任 破産国家、嵐の中の船出

困難な債務処理、怒る国民

スリランカの新大統領に選ばれたウィクラマシンハ氏=5月12日、コロンボ(EPA時事)

スリランカで先月下旬、首相などを務めてきたウィクラマシンハ氏が大統領に正式に就いた。任期はラジャパクサ前大統領が務める予定だった2024年11月まで。通常、新政権は本格始動するまで「ハネムーン期間」があり、国民やメディアも見守り態勢で臨むが、5月にデフォルト宣言を出したスリランカ政府に優雅な時間を楽しむ余裕はなく嵐の中の船出となった。債務の減額交渉や国際通貨基金(IMF)への金融支援要請、国民の生活を脅かしているエネルギー不足やインフレ対策など、早急に手を打たなくては前政権同様の〝座礁〟が待ち受けている。(池永達夫)

新政権最大の課題は、前政権崩壊の直接の引き金となった足元の経済危機の克服だ。新型コロナウイルスの発生で、最大の外貨獲得源だった観光業が低迷。外貨準備高は6月末時点で18億ドル(約2500億円)程度と、19年末の76億ドルから急減している。外貨不足で輸入が滞る中、通貨の下落やウクライナ危機に伴う国際価格の上昇が重なり、食品や燃料などの不足・高騰が国民生活を直撃。大統領官邸が占拠されるなど暴動へと発展した経緯がある。

かねて経常収支の赤字幅を拡大し続けてきたスリランカは、昨年末時点で507億ドル(約6兆1000億円)の対外債務を抱え、5月にはデフォルト(債務不履行)に陥った。ウィクラマシンハ氏は議会演説で自国を「破産国家」と現状認定し、IMFからの金融支援を得るための債務再編計画を今月末までにまとめる方針を示した。

そのIMF支援を得るためには、実質的な最大債権者である中国に大幅な債務削減で合意を取り付ける必要がある。その対中交渉がなかなか前に進んでいない。

中国は少額の人道支援には応じたものの、スリランカ政府がとりあえず求めた25億ドルのつなぎ融資や信用枠供与ですら門前払い状況だ。

中国とすれば、スリランカで借金棒引きという前例をいったん、つくってしまうと悪化傾向にある中国経済そのものを底抜けさせかねない懸念がある。中国は海路と陸路でユーラシア大陸を結ぶ一帯一路構想で各国に多大なインフラ支援をしており、これらが一斉に焦げ付くと台所は火の車となりかねないのだ。そうでなくても中国経済は現在、不動産大手が相次ぎ経営危機に陥るなど厳しい状況にある。

ただ実質的に最大の貸し手である中国が債務削減に応じない限り、アジア開発銀行や世界銀行、日本政府が債権を放棄しても、中国への返済に回るだけとなることから、他の有力な債権者がスリランカ政府の債務再編計画を承認することはない。

その中国が前門の虎とすれば、後門の狼は国民の怒りだ。今回、経済危機で生活を脅かされた国民は大統領官邸を占拠した際、首相職にあったウィクラマシンハ氏自宅に放火した。

ウィクラマシンハ氏の弱みは、国民の総意として大統領に選出されたわけではないことだ。

通常であれば、大統領は国民の直接選挙で選出されるものの、ラジャパクサ氏が在任中に辞任したことで、憲法に従い議会投票でウィクラマシンハ氏が新大統領に選出された。同氏が党首を務める統一国民党(UNP)は歴史がある政党だが、2年前の総選挙では議員の大半が統一人民戦線(SJP)へと離党し1議席だけの小政党だ。

新首相には与党スリランカ人民戦線(SLPP)のグナワルダナ氏が任命された。同氏はラジャパクサ前政権で外相や教育相を務めている。その意味では、正式な手続きにのっとったものであるとはいえ、新政権の顔ぶれが一新されたわけではなく、目に見える形で経済危機打開や債務処理ができなければ、再び国民の怒りが政局を流動化させるリスクが存在する。