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IPCC報告書 アマゾン森林消失を警告

深刻な森林消失に直面するアマゾン熱帯雨林(2011年撮影、Fernando Fanzao/ABR)

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は先月末、「気候変動2022:その影響と順応、脆弱(ぜいじゃく)性」と題した報告書を発表、世界的な規模で気候変動の影響が出ており、自然環境の急速な劣化は数十億人の生活に深刻な影響を与えると警告した。その中でも、アマゾン熱帯雨林に関して、開発優先のブラジル政府の政策に専門家が警告を発している。
(サンパウロ・綾村 悟)

ブラジル大統領 ウクライナ危機で開発促進か
露に依存の肥料確保で

近年、アマゾン熱帯雨林では、旱魃(かんばつ)による降雨量の低下と熱波が引き起こす強風が、森林の生命力を奪いながら樹高の高い木をなぎ倒すなど、人為的な森林伐採や森林火災と共に森林消失を加速させる原因となっている。

ブラジルと英国の大学の共同研究によると、特にアマゾン南部で森林の崩壊が進んでおり、森林縁部にある樹木の7割以上が生命を保てない状態にある。

旱魃や熱波は、アマゾンだけでなく、ブラジル各地やアルゼンチン、パラグアイなどで森林火災を引き起こし、消火活動を妨げている。

南米各地での森林消失が進めば、生物多様性が脅かされるだけでなく、二酸化炭素の排出量が吸収量を超えることも想定されている。

深刻な旱魃が増える一方で、雨期に入れば、記録的な豪雨が南米各地を襲い、洪水や土砂崩れだけでなく、穀物に与える被害も年々拡大している。

IPCCは、森林消失がさらに加速すれば、気候変動は不可逆となり、人類が想像したこともないような気候災害に直面すると警告。また、気候変動は、先進国よりも財政基盤や社会インフラの乏しい南米諸国により厳しい貧困と飢餓、格差をもたらすと指摘している。

ブラジルやアルゼンチンなど、世界の食料庫となりつつある南米の食糧生産は、2050年までに20%近い低下が予想されており、世界規模での食料安全保障が脅かされる可能性が高い。食料確保が政策の最優先課題となる時代がすぐそこに迫りつつあるというわけだ。

加えて、気候変動は南米地域の人々に深刻な健康被害をもたらすと指摘する。増え続ける森林火災や熱波は、気管支炎に苦しむ人々を増やし、マラリアやデング熱など熱帯性の疫病流行につながる。

IPCC関係者は、「今回の報告書は、気候変動対策を怠った場合の代償について説明している」と強調している。

IPCCが気候変動とアマゾン熱帯雨林の将来に警告を発する中、ブラジル政府の姿勢が波紋を呼んでいる。

世界最大のアマゾン熱帯雨林を抱えるブラジルは、気候変動問題で最も注目を集める国の一つだ。ブラジル政府の環境政策は、気候変動問題に直結するといっても過言ではないからだ。

ブラジル・フォーリャ紙は3日、ロシアによるウクライナ侵攻がアマゾン熱帯雨林の開発を促す可能性を報じた。ブラジルは世界有数の農産品輸出国だが、国内で消費する肥料と原料(窒素・カリウム)の3割近くをロシアからの輸入に頼っている。

ボルソナロ大統領の最大支持基盤の一つは農業団体。ロシアによるウクライナ侵攻に対してボルソナロ氏が「中立」の政治的立場を取る背景にもなっている。

こうした中、ボルソナロ氏は3日、肥料の主要原料として知られるカリウムの獲得を理由に、アマゾン熱帯雨林地域での先住民保護区の資源開発を進めるべきだと主張したのだ。
現在、先住民保護区での資源開発は法律で厳しく禁止されており、ボルソナロ氏は法改正を訴えてきた経緯がある。

ボルソナロ氏の発言に、環境団体などは「ウクライナ問題を開発に利用しようとしている」などと反発。環境問題の専門家は、先住民保護区における資源開発を許可した場合、これまで「聖域」として守られてきた保護区の自然環境に甚大な被害をもたらすと警告している。

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