南米「左傾化の波」止められるか

コロンビアとブラジル 今年大統領選

 今年は、南米の経済大国ブラジルと隣国コロンビアで大統領選挙が実施される。どちらも現在の南米では「保守の要」となっており、中南米で相次いで左派政権が誕生している「左傾化の波」を止められるかどうかが注目される。仮に両国で左派政権が誕生した場合には、米国の外交方針にも大きな影響を与えることが予想されるが、現状は左派候補が優勢だ。(サンパウロ・綾村悟)

保守政権への逆風強く

コロンビアのドゥケ大統領(EPA時事)

 中南米では昨年、大統領選挙が相次ぎ、ペルー、ニカラグア、ホンジュラス、チリで左派政権が誕生した。ペルーとチリでは、共産党所属、または共産党からの選挙協力を受けた候補が当選している。アルゼンチンとボリビアも左派が政権を握っており、南米に限定すると、保守政権はブラジル、コロンビア、エクアドル、パラグアイの4カ国のみだ。
 この4カ国のうち、コロンビアで5月、ブラジルでは10月に大統領選挙が実施される。どちらの選挙も、右派と左派の候補による直接対決になる公算が大きい。仮に両国で左派候補が当選した場合、その影響は南米だけにとどまらない。
 コロンビア大統領選挙の世論調査で、他の候補に大差をつけているのが、極左武装ゲリラ「M―19」の元幹部である中道左派グスタボ・ペトロ元ボゴタ市長だ。ペトロ氏は、2018年大統領選挙にも出馬したが、現職の中道右派ドゥケ大統領に敗北している。
 ドゥケ氏は、コロンビア保守派の重鎮ウリベ元大統領の支援を受けて当選したが、増税案と新型コロナウイルス禍による格差拡大などに端を発した反政府デモとゼネストが頻発し、支持率は低迷している。
 コロンビアでは、02年大統領選挙で、当時、最大の懸案となっていた極左ゲリラ対策で強硬策を提唱したウリベ元大統領が当選。以来、右派・中道右派が政権を担当し続けてきた。米国との関係も深く、極左武装ゲリラ・麻薬対策に向けた支援額は、中南米諸国向けでは最大だったほどだ。
ブラジルのボルソナロ大統領(AFP時事)

 近年では、ベネズエラの反米左派マドゥロ大統領による強権政治に対抗して、グアイド前国会議長が19年に暫定大統領を宣言した際には、コロンビアはいち早くグアイド氏支持を打ち出した。その後も、マドゥロ政権下で弾圧された人々をコロンビアで受け入れてきたほか、米政府とグアイド氏の橋渡し役にもなってきた経緯がある。左派のペトロ氏が政権を握った場合、米国は南米外交の重要な足掛かりを失うことになりかねない。
 一方、ブラジルの大統領選挙では、現職の保守派ボルソナロ大統領が、新型コロナ対応をめぐり、メディアや世論から厳しい批判を受けている。コロナ禍での経済停滞や格差拡大も支持率低下に苦しむ一因だ。
 10月の大統領選挙で、ボルソナロ氏の対抗馬とみられているのが、労働党の重鎮でカリスマ政治家として知られるルラ元大統領だ。各種世論調査では、支持率で10ポイント以上の差をつけており、「現時点ではルラ氏が圧倒的に有利」とみる現地メディアが多い。
 ボルソナロ氏の岩盤支持層の一つが、キリスト教福音派を中心とした宗教保守派だ。ただ、「宗教保守派も経済を無視することはできない」(リベラル系メディア)との見方もあり、国民がインフレと低成長に苦しむ状況では、保守層の支持が崩れる可能性もある。
 しかし、ルラ氏の言動に不安を抱く保守・中道の有権者は少なくない。昨年の大統領選挙で野党候補を弾圧しながら4選を決めたニカラグアのオルテガ大統領について、「メルケル独首相も長期政権だった」などと欧米からの批判に反論。キューバの反政府デモ弾圧にも理解を示す発言をしており、ルラ氏とボルソナロ氏の決選投票となった場合、保守派がボルソナロ氏支持でまとまることは十分にあり得る。
 来年4月には、南米で唯一、台湾と外交関係があるパラグアイで大統領選挙が実施される。台湾包囲網を強めている中国は、中南米カリブ海諸国で台湾友好国への切り崩しを行っており、パラグアイに対してもワクチン供与との引き換えに台湾との断交を求める「ワクチン外交」を繰り広げてきた。パラグアイでも、中国との関係強化を求める政治圧力は年々強くなっているのが実情だ。