トップ国際アジア・オセアニア風に願うチベットの自由、焼身抗議を扱った映画『ルンタ』上映

風に願うチベットの自由、焼身抗議を扱った映画『ルンタ』上映

監督「思考停止せず背景知って」

 中国国内の非漢民族の言語や文化、宗教の排除につながるとされる「民族団結進歩促進法」が7月1日に施行された。この法律への抗議として、在米チベット人の男性が同月2日、ニューヨークの国連本部前で焼身自殺を行った。この事件を受けて今月2日、チベット人の焼身抗議に焦点を当てたドキュメンタリー映画『ルンタ』(2015年、池谷薫監督)が東京大学駒場キャンパスで上映され、池谷監督などがトークイベントを実施。会場には約200人が出席し、いまだ解決の糸口が見えないチベットの平和を願う場となった。(石井孝秀)

ドキュメンタリー映画『ルンタ』上映前にあいさつする池谷薫監督=2日午後、東京都目黒区の東大駒場キャンパス(石井孝秀撮影)
ドキュメンタリー映画『ルンタ』上映前にあいさつする池谷薫監督=2日午後、東京都目黒区の東大駒場キャンパス(石井孝秀撮影)

 「焼身という激烈な行為の前で思考停止せず、これを一日も早くなくしたいという思いを持ってほしい」

 映画『ルンタ』上映前、監督の池谷氏は会場に集まった人々へ呼び掛けた。池谷氏は1984年、インドを放浪中に高山病にかかった際、初めてチベット人に出会い、命を助けられたことが撮影のきっかけとなった。

 題名にもなっている「ルンタ」とはチベット語で「風の馬」を意味する。チベット圏内では馬や経文を描いた色とりどりの旗が掲げられているが、旗がはためくたび、馬が風に乗って経典の功徳を広げてくれるのだという。

 映画前半は主にチベット仏教指導者ダライ・ラマ14世の暮らすインド北部の町ダラムサラで撮影。現地でチベット人を支援している日本人建築家の中原一博氏を語り部に、焼身や抗議活動に取り組んできた老若男女のチベット人たちに注目。自由を実現するために他者を傷つけるのでなく、自らを犠牲にすることで共産党政府に立ち向かった人々の声をすくい上げた作品だ。

 例えば2012年3月、まだ10代だった女学生ツェリン・キは、学校近くの野菜市場でガソリンをかぶり、自らに火を放った。焼身の理由は学校の教科書からチベット語が消され、すべての科目を漢語で学ぶことが強制されたためだった。

 映画では彼女の知人に取材する中で、彼女がチベット語の読めない母親に本を買い、民族の言葉を学ぶよう諭したこと、いつも周囲に「母語が廃れたら、民族も文化も死ぬ」と語っていたことが紹介された。

 後半では中原氏と共に監督とカメラマンの3人で中国のチベット地域を旅する姿が映し出された。チベット人たちが焼身を行った場所を巡りながら、色とりどりの旗がはためく山間部で、中原氏が「チベットに自由を!」と叫ぶところで映画は終了する。

 監督の池谷氏は「悲しいね。チベットは焼身のような事件がないと沈黙される」とつぶやきつつ、「僕らが日本語を取り上げられればどう思うだろうか。現在は誘拐のように、100万人とも言われるチベットの子供たちを寄宿学校に集め、中国語で教育している。これはもう明らかにジェノサイドだ」と強調した。

焼身抗議を行ってきた人々(ダライ・ラマ法王日本代表部事務所提供)
焼身抗議を行ってきた人々(ダライ・ラマ法王日本代表部事務所提供)

 また、仏教徒としてのチベット人の精神性も紹介。「チベット人はお寺で祈る時、自分の幸福を祈るのは恥として、生きとし生けるもののために祈る。ハエ1匹を見ても『前世は自分の母親かもしれない』と考えて殺すことができない。決して命を粗末にしない人たちだ。そういう人々が焼身をやらざるを得ない、というところにまで追い込まれている現実がある。その背景を知って」と訴えた。

 ダライ・ラマ法王日本代表部事務所日本・東アジア代表のアリヤ・ツェワン・ギャルポ氏は、これまでに150人以上のチベット人が国内外で焼身抗議を行ってきたと説明。さらに民族団結進歩促進法について、「すべての宗教は中国化されると書いてある。今の中国政権は宗教を『毒』だとして信じていないが、堂々とすべての宗教に干渉し、社会主義の理想を教えたり、中国政府に忠誠を誓わなければならないとしている。それは矛盾だ」と強調した。

 出席した東京大学の阿古智子教授は監視カメラや通報制度が徹底されている点に触れ、「チベットで焼身自殺は減っているが、(状況が)良くなったからでなく、コントロールされて動きが取れないようになっているだけ」と言及。その上で、漢族の中からも諸民族への過度な迫害に良心が耐えられず、亡命して証言する人々が出てきているとも述べた。

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