トップ国際アジア・オセアニア中国、比最北端でも波紋 「沖縄独立論」と重なる認知戦 南シナ海 ハーグ判決10年

中国、比最北端でも波紋 「沖縄独立論」と重なる認知戦 南シナ海 ハーグ判決10年

南シナ海を航行する中国海警船(AFP時事)

南シナ海の領有権を巡り、中国の「九段線」に法的根拠はないとしたハーグ仲裁裁判所判決から10周年を迎えた。日本を含む14カ国が判決への支持を表明する中、中国はフィリピン最北端のバタネス州を巡る新たな主張を打ち出し、波紋を広げている。南シナ海では中国海警局によるフィリピン軍要員への暴行事件も発生するなど、緊張が一段と高まっている。(マニラ福島純一)

中国の唐突な主張

判決10周年を前にした2026年6月末、中国の政府寄りとされる学者グループが、「バタネス州は歴史的・地理的に中国(台湾)に属する」との主張を展開し始めた。この唐突な領有権主張は、5月に公表された日比の海域画定交渉への牽制(けんせい)だとみられている。

これに対し、フィリピン政府は即座に反論を展開した。国家歴史委員会が史料に基づいて中国側の主張を否定したほか、外務省やギルベルト・テオドロ国防相も「理由なき領土拡張の前兆だ」と強く批判した。さらに、フィリピン沿岸警備隊のタリエラ准将と駐マニラ中国大使館との間では、X(旧ツイッター)などで議論の応酬が繰り広げられた。タリエラ氏は、中国側が批判を受けた後に関連論文をウェブサイトから削除したことを追及し、中国との「情報戦」はSNS上でも激しさを増した。

さらに注目されるのは、学者らの主張が公表される直前の6月中旬、駐フィリピン中国大使がバタネス州を公式訪問していたことだ。フィリピンの安全保障関係者の間では、この訪問が地方自治体への影響力工作や認知戦の一環だった可能性も指摘されており、「バタネスの二の舞いになるな」として、政府は中国関係者による地方訪問への警戒を自治体に呼び掛けた。

このような情報戦や世論戦の激化に合わせ、現場での威圧的な行動も加速している。7月20日には南沙諸島のアユンギン礁(セカンド・トーマス礁)で、中国海警局の要員がフィリピン海軍の駐屯基地となっている座礁船の目前までボートで接近。威嚇を行った上、対応した海軍要員の頭部を木製警棒で殴打し負傷させる事件が発生した。

この事件後には、フィリピンと中国が互いに相手国の大使を召喚して抗議する事態に発展し、海上での緊張は外交面にも波及した。

抑止力弱体化狙う

中国側は、この事件の直前にも、国営メディアを通じてフィリピン人をサルに見立てたAI動画を拡散し、フィリピンの世論や政界から激しい反発を招くなど、情報空間と現場の双方で対フィリピン圧力を強める姿勢を鮮明にしている。

バタネスを巡る今回の領有権主張は、中国が近年展開している沖縄の「帰属問題」や「沖縄独立論」を巡る言説との共通点も多い。中国は、台湾有事における日米の抑止力を弱体化させる狙いから、沖縄の歴史認識や帰属に関する情報発信や国際世論への働き掛けを強めている。

こうした動きと、バタネスを巡る今回の領有権主張は、中国が太平洋進出の要衝と位置付ける「第一列島線」(沖縄、台湾、フィリピンなどを結ぶ島嶼(とうしょ)帯)上の重要地域を巡る認知戦という点で共通する側面がある。

国際社会から法的正当性を欠くとの批判を受けながらも、中国は認知戦と海上での威圧を強めている。日本とフィリピンは「自由で開かれたインド太平洋」を支える戦略的パートナーとして、国連海洋法条約(UNCLOS)に基づく立場を堅持し、安全保障協力を一層深化させることが求められる。

こうした中、22日にはマニラ首都圏でASEAN外相会議が開幕した。南シナ海問題や中国との「南シナ海行動規範(COC)」交渉が主要議題となる見通しで、アユンギン礁での衝突直後という異例の状況の中、ASEANが地域の平和と安定に向けてどのような姿勢を打ち出すのか注目される。

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »