南太平洋の島国ソロモン諸島のワレ新首相は3日、オーストラリアとの包括的な戦略条約交渉に入るとともに、中国との安全保障協定見直しの方針を明らかにした。これに対し中国は、「ソロモン諸島の新政権と各分野の実務協力を拡大したい」(中国外務省報道官)と述べ、経済協力をまき餌に影響力確保に執念を見せた。海洋大国へ突き進む中国にとって重要な橋頭堡(きょうとうほ)となるソロモン諸島は欠くことのできない地政学的要衝なだけに、その影響力がそぎ落とされれば米豪分断を図るカードを失うことになる。(池永達夫)

ソロモン諸島では今春、政変が起きた。3月15日に現職閣僚を含む連立与党議員が政権を離脱し、議会招集を求めていたものの、マネレ首相(当時)がこれを拒否し時間稼ぎに走った経緯がある。しかし、最高裁判所の裁定で招集が決定。5月7日に賛成26、反対22で不信任決議が可決され、政権は退陣を余儀なくされた。続く5月15日の議員投票で野党党首のワレ氏が26票を獲得し新首相に選出された。
マネレ氏は首相在職時、親中政策にかじを切り、2022年に中国と安全保障協定を結んでオーストラリアや米国を動揺させた。
協定には法的拘束力のある秘密保持条項が含まれており中身は明らかにされていないものの、事前に流出した協定草案にはソロモン諸島が中国軍の派遣や艦船の寄港を認めるなど、高度な軍事協力が盛り込まれている。
中国は19年、台湾と断交したソロモン諸島と国交締結後、直ちに首都ホニアラの北に位置するツラギ島の租借に動いている。その先兵役を担ったのが中国国営企業の中国森田企業集団で、石油精製や経済特区建設を名目にツラギ島の75年に及ぶ独占開発権を得た。しかも期限後も更新可能とされていることから、事実上、永久租借に近い。

ツラギ島は面積約2平方キロ、人口約1200人の小島だが、中国がここに拠点を構えた最大の理由は天然の深海港を擁していることにある。港湾を整備すれば石油精製のための大型タンカーを横付けできるだけでなく、空母を含めた軍艦船の寄港が可能となる。
中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の特質は、経済開発と安全保障が絡んだ軍事拠点の確保が一体となっていることだ。カンボジアに膨大な経済支援を行った中国がリアム海軍基地をアフリカ東部ジブチの基地に次ぐ人民解放軍の新たな海外拠点としようとしているのと同様、南太平洋に伸びた一帯一路構想でも、インフラ投資と経済援助で政治的影響力を強めながら軍事拠点化を着実に進めようとしてきた。
ソロモン諸島は、日本の小笠原諸島やグアムを経てパプアニューギニアを結ぶ「第2列島線」に近く、米豪を結ぶ海上交通路(シーレーン)上に位置する要衝の島だ。中国が、軍隊を持たないソロモン諸島で軍事拠点を持てば、ほぼ中国が自由に使えることを意味する。その目的は、米豪を分断し将来、西太平洋を「中国の海」にするための布石を打つことにある。
こうした中国の野心にオーストラリアはしっかり向き合い、中国の影響力をそぎ落とすために注力し始めている。
3日のソロモン諸島とオーストラリアの首脳会談では、両国が包括的な新協定策定に着手するとともに、警察分野での連携強化で合意した。
ソロモン諸島はマネレ前首相時代に中国式警察モデルを導入し、中国の警察官が地方に入り込んで住民の個人データや家族の生体認証データを収集することを容認していた。また、ソロモン諸島の治安組織に中国のハードパワーおよび人的パワーが導入されることで、強権統治の中国型の強力な警察組織が誕生するとともに、その力の矛先がいずれ民主化活動家に向けられるのではないかと懸念されていた。
こうした懸念を払拭(ふっしょく)するようなソロモン諸島とオーストラリアの合意が、これからどれだけ実効性を持つか注目される。
中国は既にソロモン諸島最大の債権国に浮上しており、オーストラリアや日本を含めた西側諸国のソロモン諸島に寄り添うバックアップが必須となる。






