緊張が高まるインド太平洋の安全保障環境の中で、フィリピンが地域秩序を支える新たな「要衝」として存在感を高めている。5月下旬には、マルコス大統領による日本公式訪問と、シンガポールでのアジア安全保障会議(シャングリラ会合)がほぼ同時並行で進み、防衛・経済の両分野で大きな成果を収めた。この動きは、日本が提唱した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想が、東南アジアにおいて、具体的な協力関係として根付いていることを示している。(マニラ福島純一)

5月26日から29日のマルコス氏訪日では、高市早苗首相との首脳会談と、天皇、皇后両陛下への謁見(えっけん)が大きな注目を集めた。友好関係の深化と実務協力の拡大が確認された今回の訪問で、フィリピンは安全保障上の重要な前進を遂げた。
防衛分野の最大の成果は、海上自衛隊の護衛艦「あぶくま型」のフィリピンへの移転に向けた協議を加速することで合意したことだ。日本の防衛装備移転三原則の運用緩和を背景とするこの構想は、実現すれば戦後初となる戦闘艦艇の海外移転の可能性がある。南シナ海で中国海警局との緊張が続くフィリピンにとって、対艦・対潜能力を備えた同艦は、海軍力強化の重要な戦力となる。
経済面では、同月28日に東京で開催された経済ラウンドテーブルで、総額34億米ドル規模の投資合意がなされた。重要インフラ計画である「ルソン経済回廊」を人工知能(AI)や半導体生産の戦略拠点へ発展させるため、日本企業との連携強化が改めて確認された。
一方、シンガポールでは5月29日から31日にかけて開催されたシャングリラ会合で、テオドロ国防相がフィリピン外交の存在感を示した。
31日、小泉進次郎防衛相が日米比協力やフィリピンへの防衛装備支援の重要性を訴えたのに対し、中国代表団は「日本は軍国主義の歴史への反省を忘れている」と主張。日本のフィリピンに対する安全保障協力を批判した。
これに対しテオドロ氏は、中国が歴史問題を持ち出すことで、南シナ海における自国の非難されるべき行動から国際社会の目を逸(そ)らそうとしていると反論。日本を信頼できるパートナーと位置付け、中国の主張に正面から異議を唱えた。
この発言は、SNSを通して拡散された。日本でも大きな反響を呼び、フィリピンへの好意的な評価や感謝の声が広がった。
さらに、訪日とシャングリラ会合に続く形で、6月1日にはベトナムのトー・ラム共産党書記長兼国家主席がフィリピンを訪問し、両国関係を「強化戦略的パートナーシップ」へ格上げすることで合意した。
南シナ海問題の当事国であるフィリピンとベトナムが連携を強化した意義は大きい。両国は沿岸警備隊間の協力や情報共有の拡大を進める方針を確認しており、中国の海洋進出への対応能力向上が期待されている。
ここで注目すべきは、日本が長年にわたりフィリピンとベトナムの双方に対し、巡視船供与や海上保安能力向上支援を継続してきた点だ。こうした積み重ねが、両国の自主的な安全保障協力を後押しする土台の一つとなったことは間違いない。
一方、このような日比間の防衛協力強化やフィリピンとベトナムの接近に対し、中国政府や国営メディアは猛反発。「日本が南シナ海問題を利用して軍事的影響力を拡大している」と主張し、歴史問題にも言及しながら日本の安全保障政策を批判した。またフィリピンに対しても、域外国との軍事協力は地域の緊張を高めるとの立場を繰り返している。
5月下旬から6月初旬にかけて展開された一連の動きは、日米比協力に加え、南シナ海問題の当事国同士による安全保障ネットワークが拡大しつつあることを示している。「法の支配」と「自由で開かれた海洋秩序」の維持を重視する各国の連携は、インド太平洋地域における新たな安全保障協力の形として、今後さらに注目を集めることになりそうだ。






