「世界は大きく動き始めているのに、自国は旧来のまま…」――そうしたいら立ちと危機感が南アジアの10代や20代のZ世代と呼ばれる若者を突き動かし、政治的パワーを発揮するようになった。南アジアのネパールとバングラデシュでこの1年半の間に、Z世代が牽引(けんいん)した反政府デモによって政権が崩壊した。ネパールでは、こうしたZ世代が新政権樹立に成功し、バングラデシュでは新政権に関与できないままに終わった。ネパールとバングラデシュでは何が違っていたのか。(池永達夫)
ネパールでは2008年の王制廃止後、ネパール会議派(NC)、統一共産党(UML)、共産党毛沢東主義派(毛派)の主要3政党が連立し、政権を維持してきた。利権政治や権力者の関係者だけが豊かになる縁故経済は変わらないまま、産業は育たず失業者は増加するばかりで、人口の約2割がインドや中東など外国に出稼ぎに行っている。
昨年9月、旧政権が主要SNSの使用規制に動いたことに反発した若者の抗議デモが起きた。有力政治家を標的としたデモは激化し、70人以上が死亡する犠牲を強いられながらも、オリ首相(当時)を辞任へと追い込み、共産政権を崩壊させた。
今年3月5日の総選挙で、オリ氏や3人の首相経験者らを一掃するほどの勢いを見せたのがラッパーから政治家に転身したバレンドラ・シャハ氏(35)だった。
シャハ氏は10有余年前、トレードマークのサングラスをかけ、政治腐敗や縁故主義など社会的不平等といったテーマをラップに乗せて歌い始めた。多くの政治エリートは、ただの雑音と無視したが、若者たちは静かに耳を傾け続けた。
そうしたZ世代の若者から強い支持を受けたシャハ氏は政治改革のリーダーとして急浮上し、首都カトマンズ市長を経て国家のかじ取りを任されることになった。シャハ氏が率いた国民独立党(RSP)は、今回の総選挙で地滑り的勝利を収め、27日、シャハ首相が誕生した。
一昨年、バングラデシュでもネパール同様、Z世代が旧政権を倒しはしたものの、今年2月の総選挙(一院制、定数350)では主要政党のバングラデシュ民族主義党(BNP)が3分の2を超す議席を得て大勝し、タリク・ラーマン党首が新首相に就任した。BNPが209議席、イスラム主義政党・イスラム協会(JI)が68議席で2番手につけた。Z世代をバックにした学生政党の国家市民党(NCP)は6議席にとどまり、新政権を樹立する政治的パワーを持つことはなかった。
ネパールででき、バングラデシュではできなかった違いは何だったのか。それはZ世代の政治的エネルギーをまとめ上げる器量のあるリーダーがネパールにはいて、バングラデシュには不在だったということに尽きる。
バングラデシュのハシナ政権を倒した24年8月の若者主体の反政府デモでは、Z世代の学生の活躍ぶりが顕著だった。そうした彼らが立ち上げたNCPは、選挙でJIと組んだことへの失望や経験不足への懸念から議席は1桁台にとどまった。怒りに火が付いた純粋なZ世代は火柱となって破壊の政治的エネルギーを形成しやすいが、火を制御するリーダーが不在だと政治的権力を託されることはない。
ただ選挙は水物だ。時に応じて大きく風向きが変わってくる。Z世代に押し出される形でネパールの新政権を発足させることになったシャハ氏にしても、ダイナミックな政治的刷新と雇用創出で実績を挙げられなければ、すぐに国民に飽きられてしまう。
「3月の風と4月の雨が5月の新緑を作る」と言われる。Z世代が吹き込んだ新旋風で政権を握ったシャハ首相が、国家の安全を担保し国民生活の向上といった地道な水やりを怠ると政治的求心力は一気に失われかねない。






