
衆院選で自民党が圧勝し単独で3分の2超の議席を獲得したことに中国は衝撃を受けている。中国からすれば日本は、圧力をかければ揺らぐ国だった。自国の軍備増強を棚に上げ、日本の外交姿勢の変化や防衛力強化の動きを「軍国主義」や「再軍事化」と批判。国内や国際社会に向けて、日本への誤った印象を植え付けようとしている。(宮沢玲衣)
中国国防部の報道官は10日、記者会見で「日本は再軍事化を、虚偽の法治で取り繕っている」と主張。王毅共産党政治局員兼外相は14日、ミュンヘン安全保障会議で「軍国主義の亡霊が徘徊(はいかい)している」と訴えた。外交的に日本を孤立させ、欧州などに接近し、影響力を高めるためのプロパガンダだ。
米ニューヨークの国連本部で先月26日に開かれた安全保障理事会の会合で、中国の孫磊国連次席大使は「日本は国際秩序の破壊者になっている」と発言。歴史を反省し、中国と国際社会の信頼を得る行動をすべきだと強調した。
中国は、憲法改正や防衛費の増額への動きを「再軍事化」の主張の根拠とする。軍国主義の定義は「軍事力の強化が国民生活の中で最高の地位を占め、政治・経済・文化・教育などすべての生活領域をこれに従属させようとする思想や社会体制」(小学館/デジタル大辞泉)だ。これに従えば、中国の体制こそが軍国主義だ。
衆院選前には中道改革連合が与党にもなり得るとし、高市早苗首相が選挙戦の結果を受けて辞任するとの可能性を伝える中国メディアもあった。中国から日本への渡航制限や日本水産物の禁輸などの制裁措置が効力を発揮し、選挙結果に大きく影響を与えると考えていたからだ。
結果は国民の信任を得た高市氏率いる自民が圧勝した。中国にとっては大誤算だ。中国の高圧的な姿勢が日本国民の投票行動に影響を及ぼすことはなかったようだ。一党独裁体制の中国では国民の参政権は限定的で、個人の考えや感情は軽視されがちだ。民主主義国の政治に国民個人の考えが反映されることを本当の意味で理解できていないのだろう。
日本の毅然(きぜん)とした対応を受けて、中国の反応にも変化が見られる。水産庁は今月12日、長崎県五島市女島沖の日本の排他的経済水域(EEZ)で中国漁船を拿捕(だほ)し、中国籍船長を漁業主権法違反容疑で現行犯逮捕した。中国外務省はこれに対し冷静なコメントを行うに留(とど)め、対日批判や抗議はなかった。2010年の中国漁船と海上保安庁の巡視船との衝突事件では、両国関係が冷却し、中国はレアアース(希土類)の対日輸出規制に踏み切るなど強硬的だった過去があるだけに、今回は拍子抜けするほどに「普通の反応」だった。
高市氏は今回の選挙で圧倒的な国民の支持があることを国内外に示した。中国も今までの高圧的なやり方は通じないとみて、外交姿勢に変化を起こす可能性がある。
中国の外交姿勢の変化の一因として、中国経済の悪化が背景にある。中国国民にとって、中国共産党統治の正当性を担保していたのは経済成長だった。中国は統計上、成長を続けているものの、実質的な経済は衰退していると言われており、「戦狼外交」を始めた当初のような体力はない。日米が積極的に台湾を支援する構図に強い警戒感を抱いても、ここで中国が日本製品不買運動や反日感情を極端にあおり、日系企業の「脱中国化」を進めてしまえば雇用や経済への損失が大きくなるだけだ。
共産党政権が続く限り、今後の中国の対外姿勢が軟化したとしても、世界の覇権を狙う野心に変化はない。日本人は中国の外交姿勢が変化したとしても惑わされてはならない。






