
一昨年8月、バングラデシュで政変が起き、20年近く政権を率いてきたアワミ連盟(AL)党首のハシナ氏はインドへ亡命した。今年2月12日に行われる総選挙では、ALに代わり最大野党バングラデシュ民族主義党(BNP)が圧勝する趨勢(すうせい)にある。その政治的地図が塗り替わる隙を狙い、中国が空から影響力増大を図ろうと動きだしている。(池永達夫)
バングラデシュ空軍のカーン空軍参謀長は1月7日、パキスタンの首都イスラマバードを訪問し、同国のババー空軍参謀長と防衛協力協定を締結した。注目されたのはパキスタンが中国と共同開発したJF17サンダー戦闘機の売却問題だった。パキスタン国防省報道官は、同戦闘機売却を好条件で提案したことを明らかにしている。
JF17は、パキスタン空軍と中国人民解放軍傘下の中国成都飛機工業公司が共同開発した軽戦闘機だ。エンジンはロシア製でマッハ1・6の速度を誇り、中国製の空対空ミサイルや空対地ミサイル、精密誘導爆弾を搭載できる。中国では実戦配備されてはいないがパキスタン空軍では161機を運用、低価格ながら高性能で、次世代の軽戦闘機市場で急速に存在感を高めている。
ミャンマーやナイジェリア、イラク、スーダンではすでに配備されており、アゼルバイジャンやリビアも契約済みで、サウジアラビアとも売却交渉に入っている。今回、バングラデシュへの売却が実現すれば、南アジア地域での初輸出となり、空から地政学的地図を塗り替えようとする中国の野心への懸念が高まる。
中国は従来、「真珠の首飾り」と称される海からのインド包囲網構築にいそしんできた経緯がある。逆三角形のインド半島を女性の首に見立て、バングラデシュのチッタゴン港やスリランカのハンバントタ港、それにミャンマーのチャオピュー港、パキスタンのグワダル港などを押さえることで、インドを牽制(けんせい)し南アジアへの影響力増大の布石としてきたのだ。
今回、そうした海からだけではなく、空からも南アジアの覇権構築に動きだしたことが注目される。
中国が巧妙なのは、直接、手を出すわけでなく、パキスタンというイスラム国家を手駒として使っていることだ。これで購入国は表向き、中国の覇権構築野心を懸念する欧米に気兼ねすることなくJF17導入を進めることができる。中国がパキスタンに期待するのは、こうした緩衝機能でもある。
そもそもJF17製造において6割方を担うとされるパキスタンが担当するほとんどは機体部分で、心臓部の電子機器は中国製だ。JF17が軽戦闘機市場で国際競争力を持つのは、1機9000万㌦とされるフランス製戦闘機ラファールの3分の1という低価格と共に、その核心的機能の充実ぶりにある。
パキスタン空軍のJF17は昨年5月、係争地帯カシミールで起きたインドとの武力衝突でロシア製地対空ミサイルS400を破壊したとされる。とりわけ最近、兵器バイヤーの関心を集めているのがJF17の最新モデルだ。初期型から飛躍的に進化したとされるこのモデルは、最新レーダーを装備し複数の目標を同時追尾し、ジャミング(電波妨害)されても正確な敵機捕捉能力を持つとされる。また中国製最新長距離空対空ミサイルが追加装備されたことで、強力なライバルとなる米国製戦闘機F16に対しても、射程外から攻撃できる。
バングラデシュは独立以来インドと友好関係にあったものの、インドに亡命したハシナ前首相の引き渡しを求めるなど近年では緊張が高まりつつある。このためバングラデシュは、インドと領土問題を抱えるパキスタンとの関係強化に向かいつつある中、JF17導入が決まれば南アジア全体の地政学的地図が塗り替わる端緒ともなりかねない。
インド太平洋地域の西の一角を占めるバングラデシュにとって日本は最大の援助国だが、放っておけば足をすくわれることにもなりかねない。






