
フィリピンにとって2025年は、マルコス家とドゥテルテ家という2大政治勢力の圧倒的支持を背景に発足した「ユニチーム」政権が瓦解(がかい)し、政局の混乱が繰り返される一年となった。マルコス大統領とサラ・ドゥテルテ副大統領の決裂は修復不能な段階に達し、政権中枢は深刻な分断状態に陥った。加えて、洪水対策事業を巡る大規模汚職が人命被害や経済失速へと連鎖し、政権は任期半ばにして重大な信頼危機に直面した。(マニラ福島純一)
亀裂が決定的となったのは25年初頭だ。2月には下院でサラ副大統領への弾劾攻勢が始まり、3月にはマルコス政権が国際刑事裁判所(ICC)によるドゥテルテ前大統領の逮捕状の執行を事実上容認し、拘束に踏み切った。娘のサラ氏はこれを「国家による裏切り」と非難して政権を離脱。政界は親マルコス派と親ドゥテルテ派による激しい権力闘争の舞台へと変貌した。
こうした緊張の中で迎えた7月の施政方針演説で、マルコス氏は異例の姿勢を示す。前年に洪水対策の成果を誇示したのとは一転し、手抜き工事や架空事業の実態を自ら暴露し、関係者を厳しく糾弾した。当初は公共事業道路省と請負業者による局地的腐敗として収束させる構えだったが、調査の矛先は次第に政権中枢へと及んでいく。
9月には、大統領のいとこで与党重鎮のマルティン・ロムアルデス下院議長が辞任。混乱は上院にも波及し、議長交代や複数議員への汚職疑惑、さらには複数の閣僚の辞任など、立法府の不安定化は政権の統治力低下を国内外に強く印象付けた。
社会不安も顕在化した。各地で反汚職デモが続発し、9月の戒厳令布告記念日の集会では一部参加者が暴徒化。警官約100人を含む170人が負傷し、200人以上が逮捕される異例の事態となった。さらに10月から11月にかけて台風の上陸が相次ぎ、洪水や地滑りで約300人が死亡。長年の汚職の積み重ねが招いた「人災」との認識が広がり、国民の怒りは一層高まった。
11月30日には全国規模の反汚職デモが行われ、10万人以上が参加し、説明責任を求める声はピークに達した。マルコス氏は「クリスマスまでに汚職関係者を投獄する」と宣言し、地方局長級の元職員が返還した4000万ペソ(約1億円)の現金を公開したが、末端官僚ですら巨額の不正蓄財が可能だった現実は、政権中枢への捜査の遅れと不公正さを際立たせた。

世論の不満は数字にも表れている。11月の世論調査で、マルコス氏を「大いに信頼している」と答えた割合は38%に低下し、「ほとんど信頼していない」は41%と過去最悪水準に達した。純信頼度はマイナス3ポイントに沈み、ミンダナオ地方では58%が「ほとんど信頼していない」と回答。一方、サラ氏の純信頼度はプラス31ポイントと、政権内の分断が国民評価にも鮮明に反映された。
新年度予算が政権発足以来初めて成立しないまま年を越した事実も、洪水対策事業を巡る汚職がマルコス氏の政治的求心力を確実に弱めていることを象徴している。政治の混迷は経済も直撃し、ペソは史上最安値圏に沈下。第3四半期の国内総生産(GDP)成長率は4・0%まで減速し、ロムアルデス駐米大使は、汚職による信頼低下で、最大1500億㌦規模の潜在投資喪失を警告した。
マルコス政権は任期を長く残しながらレームダック(死に体)状態に陥りつつある。一方で、民間調査会社パルス・アジアの昨年12月の調査では、国民の54%が政治王朝禁止法の即時成立を支持し、首都圏では69%に達した。
この世論の変化は、28年の次期大統領選を見据え、マルコス家やドゥテルテ家といった王朝政治とは異なる新たな第3勢力が台頭する余地を広げつつある。26年は、フィリピン政治が、長年続いた世襲と腐敗の構図から転換できるのかを占う、重要な分岐点となりそうだ。






