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恒久的和平は遠い? 収まらないタイ・カンボジア紛争

10日、カンボジア北部ウッドーミアンチェイ州で避難する人々(EPA時事)
10日、カンボジア北部ウッドーミアンチェイ州で避難する人々(EPA時事)

ナショナリズム煽り政治的野心も

 国境紛争が再燃したタイとカンボジアは27日、タイ東部のチャンタブリ県で両国国防相が会談し、停戦を定めた共同声明に署名した。停戦は同日正午(日本時間午後2時)に発効した。これに先立ちルビオ米国務長官は、タイのシーハサック外相に10月の和平合意を順守するよう呼び掛け、中国の王毅共産党政治局員兼外相も改めて停戦合意を呼び掛けていた。(池永達夫)

 そもそも両国の間で火の手が上がったのは5月末だった。タイ東北部とカンボジア北部が接する係争地で両国軍の銃撃戦が発生し、カンボジア兵1人が死亡した。両国とも「相手が先に発砲した」と主張し、禁輸措置や国境封鎖で対立。7月には、砲撃や空爆などで相手領内を攻撃し合う事態に発展し戦闘は広範囲に拡大。双方で民間人を含む30人以上が死亡した。

 両国は7月末、無条件の即時停戦で合意したものの、紛争の煙はくすぶったままだった。そして、タイのアヌティン首相とカンボジアのフン・マネット首相が10月末、クアラルンプールで和平合意を締結した。調印式にはトランプ米大統領と東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国マレーシアのアンワル首相が同席した。「8カ月で八つの戦争を終結させた」と胸を張るトランプ氏の「八つの戦争」の一つに、タイとカンボジアの紛争が入っている。

 だが12月8日には、国境紛争が再び激化。同月の紛争では、両国の死者は220人を超え、64万人以上が避難を余儀なくされた。トランプ氏は再び調停に乗り出し、両国首脳に電話で停戦を呼び掛けた。

 両国は何度も手打ちしながら、一時的な和平にとどまるだけで恒久的な実効性を伴わなかった。27日の停戦合意もいつ破られるか分からないリスクが潜む。背景にあるのは相互の政治事情だ。

 カンボジアは現在、フン・セン前首相が院政を敷く形で息子のフン・マネット首相への権力移譲が進行中だが、こうした世襲体制に対し反発を覚える国民は決して少なくはない。そうした政治的リスクを一蹴し、強力な政治的求心力を得るため外敵をつくり出してナショナリズムをあおる手法は古典的ながら有効だ。

 豪戦略政策研究所(ASPI)の衛星データ分析によると、今回の軍事的緊張の高まりは主にカンボジア側から始まったとされる。カンボジア軍は5月28日の事件前から係争地近くに建造物を構築するなど複数の拠点を強化し、事件後もスピーディーに増援部隊を派遣している。

 一方、タイも同様の内政事情を抱えている。親軍政党であるタイ威信党を主要与党としたアヌティン政権は、2月に総選挙を控えており、新政権への足掛かりをつかむためにも領土に関する主権問題で強硬路線に出ざるを得ない立場にあるからだ。

 だが国家エゴむき出しの紛争で、両国の国境貿易は途絶え共同開発計画があったタイ湾の石油天然ガス採掘プロジェクトも、たなざらしにされたままだ。とりわけASEANの製造業の拠点であるタイが進めている「タイプラス1」政策は、ミャンマーのクーデター騒動で西への道が閉ざされ、東側の有力候補地であったカンボジアへの工場移転に急ブレーキがかかっている。

 こうした経済合理性の壁を破る政治の論理が、紛争を長引かせている要因となっている。

 ただ、来年2月8日のタイ総選挙次第では、新政権が大局的な視点から政治的判断を下す可能性も残っている。どこの国でも隣国との関係は、微妙な政治リスクを抱えているものだ。しかし、国家エゴを抑え込み妥協点を見いだして矛を収め、地域全体の利益を優先して今月27日の停戦合意を恒久的なものにする冷静な知恵に期待したい。

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