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フィリピンの脱中国鮮明 恫喝にも揺れない国家戦略

南シナ海海上で、海上自衛隊の護衛艦「たかなみ」を見守るフィリピン海軍の兵士=6月14日(時事)
南シナ海海上で、海上自衛隊の護衛艦「たかなみ」を見守るフィリピン海軍の兵士=6月14日(時事)

 台湾有事を巡り日本が直面している中国からの外交・経済的圧力は、南シナ海の領有権を巡って中国と対峙(たいじ)するフィリピンが経験してきた重圧と酷似している。マルコス政権の対中姿勢と、それに伴う国内の動きは、東アジアの安全保障上の課題に直面する国々が抱える、共通の現実を映し出している。(マニラ福島純一)

 象徴的だったのが、日本による与那国島へのミサイル部隊配備計画を巡り、フィリピン海軍報道官が、「安全保障上の懸念にはならない」と支持を表明し、反発する中国を牽制(けんせい)したことだ。南シナ海と台湾海峡の安定はフィリピンの国益と直結しており、マルコス政権が掲げる「脱中国」路線の明確な表れと受け止められている。

 マルコス大統領は今年8月、米国が台湾有事に関与した場合「フィリピンが傍観することは不可能だ」と発言し、中国は即座に「火遊びするな」と反発した。しかしマルコス氏は、台湾には多くのフィリピン人労働者が在留しており、安全保障上の当然の課題だと説明。中国の過剰な反応に屈せず、実利に基づく姿勢を示した。

 国内では、親中路線だったドゥテルテ前政権が積極的に誘致した中国系オンラインカジノ事業であるフィリピン・オフショア・ゲーミング・オペレーター(POGO)が深刻な社会問題へと発展した。各地に広がった拠点が国際的なオンライン詐欺、人身売買、監禁などの中国系犯罪組織の温床となり、スパイ活動疑惑まで浮上。

 とりわけ違法POGO関与で逮捕されたアリス・グオ市長の事件は象徴的で、後に中国籍であることが判明し、複数の人身売買に関与したとして終身刑が言い渡された。国家機関の腐敗や脆弱(ぜいじゃく)性を突く「浸透」が、地方自治体のレベルにまで達していたことを示す、衝撃的な事例だった。

 こうした脅威を受けマルコス政権は、POGO全面禁止へ舵(かじ)を切り、関係する中国人4000人以上を強制送還。電子ビザ発給も停止し、入国管理を大幅に厳格化した。対中国政策の転換は急速かつ徹底しており、日本が今直面している圧力と重なる。

 これに対し中国は、在比中国人が犯罪に巻き込まれるケースが多発しているとして、渡航自粛を呼び掛ける事実上の報復措置を発動。これは日本への“渡航注意喚起”と同じ構図であり、中国が不満を抱く相手国に対して繰り返し用いてきた圧力手法だ。

 観光業への影響は大きく、コロナ前に174万人に達していた中国人訪問者は2024年には約30万人まで急減。観光省は今年、目標としていた外国人訪問者840万人のうち200万人を中国から見込んでいたが、達成は困難な情勢だ。

 しかしフィリピンは観光市場の多角化を進め、インドや中東からの誘客を強化。観光収入は24年に前年比9%増の7600億ペソ(約2兆円)と過去最高を記録した。中国依存の縮小が必ずしも国家経済の致命傷にはならないことを示す結果となった。

 中国への警戒感も国民レベルで極めて高い。25年7月の世論調査では、85%が中国を「信頼しない」と回答し、74%が「最大の脅威」と認識。南シナ海問題での政府の強硬姿勢には76%が支持を表明し、中国の威圧行動を積極的に公表する「透明性政策」には実に94%が賛同した。また、海洋権益を守る上で最も信頼できる国として米国が77%、日本も45%で続き高い評価を得ている。

 中国は過去にも、関係悪化に合わせてフィリピン産バナナの検疫を強化し、事実上の輸入停止に踏み切った経緯がある。その結果、大量のバナナが港で腐敗し、フィリピン側が莫大(ばくだい)な損害を被った。外交的「恫喝(どうかつ)」は中国の常套(じょうとう)手段であり、国民にもその認識が広がっている。

 日本を含む周辺諸国が直面する中国からの圧力は共通しており、フィリピンの対応は多くの示唆を与える。中国依存を段階的に減らし、法の支配を共有する近隣国との連携を強め、多角的な抑止力を構築することが鍵となる。

 フィリピンは日本との円滑化協定(RAA)など防衛協力を深め、地域の安定に向けた取り組みを強化している。毅然(きぜん)とした姿勢と強固な同盟こそが、東アジアの平和を支える現実的な道である。

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