トップ国際アジア・オセアニア日比協力で対中抑止を強化 大統領が高市首相と初会談  北朝鮮の拉致・ミサイル問題に言及

日比協力で対中抑止を強化 大統領が高市首相と初会談  北朝鮮の拉致・ミサイル問題に言及

 マレーシアで開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議で、フィリピンのマルコス大統領は日本の高市早苗首相と就任後初の首脳会談を実施した。両首脳は、南シナ海での中国による威圧行為や、北朝鮮の拉致・ミサイル問題での連携を確認し、来年の国交正常化70周年を見据えて、日比関係を安全保障・経済の両面で一段と深化させる姿勢を鮮明にした。(マニラ福島純一)

 会談では、日・フィリピン物品役務相互提供協定(ACSA)が実質合意に至ったことや、9月に発効した日比部隊間協力円滑化協定(RAA)の適用など、両国間の防衛・災害対応能力の強化が確認された。

 実際にRAAはすでに運用段階に入っている。10月7日からフィリピン中部のマクタン・セブ国際空港で実施された日比共同訓練「ドウシン・バヤニハン」では、セブ島北部で発生した地震の災害対応で、航空自衛隊C130輸送機と隊員約30人が救援物資を空輸。両国部隊間の相互運用性向上にもつながった。

 またフィリピン政府は、日本の自衛隊からの退役艦艇導入に前向きで、南シナ海での抑止力強化に期待が寄せられている。こうした連携は、自由で開かれたインド太平洋を支える防衛協力枠組みである日本・ASEAN防衛協力強化閣僚イニシアチブ(JASMINE)の理念を体現するものだ。

 経済面では、高市氏がフィリピンの経済・インフラ強化への日本の支援を表明。コメの収穫後処理設備の提供など、食料安全保障に関する支援にも触れた。マルコス氏は、日本の政府開発援助(ODA)を通じた協力に謝意を示すとともに、防衛・経済・災害対応など幅広い分野での協力強化を確認した。

 今回のASEAN関連首脳会議では、フィリピンの中国に対する強い不信感が、改めて浮き彫りとなった。マルコス氏は会議で、南シナ海での中国の行動を主権侵害および国際法違反として非難。スカボロー礁の「自然保護区」宣言を問題視し、国連海洋法条約(UNCLOS)などを根拠に、明確な対中牽制(けんせい)を行った。

 北朝鮮問題についても、弾道ミサイル発射や拉致問題に触れ、日本と連携して平和的解決に向けた外交努力を進める意向を示した。日本にとって、フィリピンが北朝鮮問題に言及したことは、東アジアの抑止力強化にもつながる極めて重要な動きだ。

 南シナ海では中国の威圧行為がエスカレートし、フィリピンの艦船が放水攻撃や衝突被害を受ける事例が相次ぎ、負傷者も出ている。こうした情勢を背景に、中国に対する国民感情は悪化しており、パルス・アジア社が9月に実施した世論調査では、77%が「中国の威圧行為への対処で最も頼れる国は米国」と回答。日本も45%で2位につけ、地域の民主国家として強い信頼が寄せられている。

 また5月に行われた中間選挙に関する世論調査では、7割を超える有権者が「親中国派の候補者を支持しない」と回答するなど、国民の対中不信はすでに政治判断にも影響を及ぼしている。

 しかし、その一方で、主要産業である観光誘致では、中国に依存せざるを得ないのが現実だ。詐欺拠点や人身売買など中国人犯罪の急増で、中国人向けの電子ビザを停止したことで、主要市場だった中国人観光客が激減。観光誘致で、周辺諸国に大きく後れを取っている現実もあり、電子ビザ再開を余儀なくされるなど、経済と安全保障の板挟みが続く。

 日比両国は、来年の国交正常化70周年を前に、防衛・経済・人材交流の3本柱で連携をより深化させる見通しだ。地域の安定と法の支配を重視した外交姿勢を内外に向けて鮮明に示したことは、両国にとって大きな成果となった。

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