トップ国際アジア・オセアニア高速鉄道、開業2年も依然赤字 インドネシア 国鉄総裁も危機感 「中国式」導入に批判 も【ワールドスコープ】

高速鉄道、開業2年も依然赤字 インドネシア 国鉄総裁も危機感 「中国式」導入に批判 も【ワールドスコープ】

<<バンドン側のテガルルアル駅でのワークショップ>>=2024年11月、ウーシュHPから
<<バンドン側のテガルルアル駅でのワークショップ>>=2024年11月、ウーシュHPから

 インドネシア初となる高速鉄道「ウーシュ」が開通して、間もなく2年を迎える。中国が建設したこの鉄道は、首都ジャカルタと西ジャワの中心都市バンドンの142キロを結び、乗車時間を在来線の3時間半から40分へと短縮させた。だが日本と契約直前まで進んでいた建設工事を、中国が「油揚げをさらうトンビ」のようにかすめ取ったいわく付きの高速鉄道は、2年連続の赤字続きで、インドネシア国鉄総裁も危機感を表明した。(池永達夫)

 中国が推進する海外のインフラ整備は、冷徹な世界戦略の計画の下で動いている。その計画とは、2012年に中国共産党総書記に就任した習近平氏肝煎りの「一帯一路」構想だ。一帯一路の基本構想はユーラシア大陸の東西を北の陸路と南の海路で結び、中国を中心とした巨大経済圏を構築しようというものだ。とりわけ裏庭でもある東南アジア諸国連合(ASEAN)に対する中国の思い入れは大きなものがある。

 理由は、欧州連合(EU)に匹敵する人口規模を誇り、中国産品を売り込む将来の巨大マーケットとして期待されることと地政学的要衝に位置していることだ。

 そのASEAN北部に位置するラオスには21年、中国雲南省の昆明と連結した高速鉄道を建設し、現在運行中だ。さらにASEAN南部のインドネシアに高速鉄道を敷設し、東南アジアの南北を軌道幅など中国規格で固めた格好だ。

 ただ、ウーシュが期待通りの運行実績を積んだかとなると疑問符が付く。

 何よりウーシュは、赤字の垂れ流し状態が2年間続いた。それはインドネシア国鉄のラシディン総裁が「時限爆弾」と危機感を募らせるほどだ。

 昨年1年間で高速鉄道は、4・2兆ルピア(約400億円)の赤字を計上し、今年上半期には1・6兆ルピア(約160億円)の赤字を積み上げた。この赤字分の半分以上をインドネシア国鉄が負担している。入札当時、中国が提示した条件は、「政府保証不要・国家予算負担なし」の破格の融資スキームだった。インドネシア政府に財政負担を一切求めず、運営会社の借り入れ分についてもインドネシア側の保証を求めないとしたものの、結果的には多大な財政負担を強いることになっている。

 それでも着実に乗客が増える見通しがあるなら希望もあるが、それも難しい状況だ。

 一つの理由は、利便性の悪い駅の立地にある。

 ジャカルタ、バンドンのターミナル駅は、市内中心部には乗り入れておらず、市街地の外れに建設された。バンドン側のテガルルアル駅は、周囲を田畑で囲まれている。中間駅も同様、民間所有地を避けインドネシア側のコンソーシアム参加企業の所有地を利用した。コストカットと未開発地に駅を設置することで、住宅や工業団地など周辺開発事業と併せて利潤をたたき出そうというのだ。

 この交通インフラと地域開発の二兎(にと)を追った中国型ビジネスには、批判が多い。まずは交通の利便性を優先すべきで、地域開発は次のステップというのが成功のセオリーだからだ。駅周辺の不動産事業を中心に据えた地域開発をしようにも、新しい交通インフラの利用客が増えなければ駅周辺の土地を利用する事業体は現れようがない。

 とりわけジャカルタのターミナル駅への不満は大きい。バンドンから40分弱でジャカルタに到着しても、そこから市中に入るまでジャカルタ名物となったひどい渋滞に巻き込まれてしまっては何の意味もない。駅から駅までは高速でも、ドアツードアではとんでもない時間を要するようでは人気の出ようはずもない。

 建設コスト超過問題も尾を引いている。インドネシア政府は当初、総工費を55億㌦(約7370億円)と見積もっていたが、結局、総工費は80億㌦(約1兆2000億円)に達した。近年、顕著となっている資材高騰で出費がかさんだのが主要因とされるが、「安く請け負って高く売り付ける」中国式ビジネスへの疑惑も広がっている。

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