フィリピンで洪水対策事業を巡る大規模な汚職が発覚し、マルコス政権を揺るがしている。国民からの批判を受け、大統領は公共事業道路省の全職員に辞任を求め、さらに不正調査のため独立委員会を設置する方針を固めた。しかし、今回明るみに出た問題は巨大で複雑な腐敗構造の氷山の一角にすぎず、全貌の解明は容易ではない。(マニラ福島純一)
汚職の背景には、公共事業における手抜き工事や実体のない、いわゆるゴーストプロジェクト(幽霊事業)などでの、建設業者と政治家との癒着がある。財務省は、わずか数年でフィリピン経済に約1000億ペソ(約2600億円)規模の損失を与えたと試算している。さらにラグソン上院議員は、請負業者に支払われる洪水対策費のうち、政治家や官僚へのキックバックなどが横行し、実際に工事に回るのは40%未満にすぎないと指摘した。
現地報道によれば、関与した建設業者の中には過去に出演したテレビ番組で、数十台の高級車を誇示していた経営者もおり、今回の捜査では関税局がこれらの車を押収する事態にまで発展した。こうした事例はネポティズム(縁故主義)や王朝政治の典型とされ、国民の不満をさらに強めている。
今回の問題を受け、マルコス大統領が新たに任命した公共事業道路省のディゾン長官は、国内業者向けの入札を一時停止。透明性を確保する安全策を整備すると発表し、洪水対策や道路・橋といった国内資金による事業の一時停止を命じた。その一方で、日本が支援しているマニラ首都圏の地下鉄建設事業など、外国資金が関与する大規模インフラ事業は継続され、国内業者に依存する分野の縁故主義や利権構造が、改革の妨げとなっている課題が改めて浮き彫りとなった。
7月末にはマニラ首都圏を豪雨が直撃し、パシッグ市では約4000世帯、約1万4000人が避難を余儀なくされるなど、市街地では浸水や交通麻痺(まひ)が続き、都市機能は大きく乱れた。その直後に発覚したこの汚職疑惑は、国民の怒りを増幅させ、幽霊事業疑惑への抗議や不満の高まりにつながった。
こうした怒りは抗議デモという形でも表れている。汚職に関与したとされる建設会社の本社ビルや、公共事業道路省の本部、さらに予算を審議する下院議場にまでデモ隊が押し掛け、泥を投げ付けたり、スプレーペイントで落書きをしたりするなど抗議活動は過激化。警官隊と小競り合いになる場面もあった。
政府の今回の対応は、全職員の辞任要求や独立委員会の設置といった象徴的行動によって「汚職に厳しい姿勢」を示す政治的メッセージの色合いが濃い。しかし、縁故主義や利権構造が根強く残る限り、迅速で透明な洪水対策の実現は難しい。マルコス氏自身も縁故主義や王朝政治の象徴的存在と見なされており、政治家と業者の癒着を断ち切れるかどうかには疑問が残る。
これらの不正事業は、ドゥテルテ前政権で開始されたという証言もあり、過去の事例から見ても、自浄作用だけで問題を解決するのは極めて困難なことは明白だ。
地下鉄など専門性の高い分野で信頼を得ている日本をはじめ、海外の資金や技術協力を洪水対策にも活用することは、透明性と実効性を高める有効な方法となり得る。実際に、マニラ首都圏の一部河川では日本の支援による取り組みが一定の成果を示している。
しかし、温暖化現象で悪化する最近の豪雨では、首都圏全体や近郊にまで深刻な影響が及び、自治体ごとの対応だけでは限界があることが浮き彫りとなっている。こうした状況を踏まえれば、中央政府が主導して包括的な洪水対策を進め、海外の専門知識や技術をより積極的に取り入れていくことが求められているのではないだろうか。






