
南シナ海の緊張を背景に、フィリピンと米国が軍事・貿易両面で新たな枠組みで合意した。ワシントンのホワイトハウスで行われた首脳会談では、フィリピン国内での弾薬備蓄拠点の設置計画と新たな関税制度が正式に確認された。国内では関税以上に弾薬拠点の動向が注目を集めており、雇用創出への期待がある一方で、対立国からの「攻撃目標になる」との懸念も出ている。(マニラ福島純一)
フィリピンの英字紙インクワイアラーなどによれば、今回の新貿易協定では、フィリピンから米国への輸出品に19%の新関税が課される一方で、米国製品のフィリピン向け輸出はゼロ関税となる。フィリピン国内の輸出業者からは負担増への不安の声も上がったが、マルコス大統領は「米市場への安定的アクセスの確保と安全保障協力の強化は国益に沿う」と指摘。当初提示されていた20%から1ポイント引き下げられたことも、負担軽減として強調した。
注目されるスービックでの弾薬拠点は、かつての米海軍基地跡に建設される予定で、インド太平洋地域における有事対応能力を高める米軍の狙いがあるとされる。マルコス大統領は「フィリピンの自立的防衛体制を補完するものだ」と述べ、テオドロ国防相も「国軍の近代化と地域の抑止力強化につながる」として、数百人規模の雇用創出にも期待を示した。
一方で、漁業団体や科学者団体からは「攻撃対象になる可能性が高まる」との懸念や、環境汚染への不安が表明されている。中国政府も「地域の軍拡を助長する」として外交ルートを通じて正式に抗議している。
トランプ大統領との会談に先立ちマルコス氏は、ルビオ米国務長官とも会談、南シナ海での対中抑止と「自由で開かれたインド太平洋」維持のため、航行の自由を支える連携強化を確認した。
現地政府系メディアPNAによると、スービックの弾薬拠点を巡り、トランプ氏は会談後の記者会見で「数カ月以内に、われわれはこれまでにどの国も持ったことのないほどの弾薬を保有することになる」と述べ、弾薬備蓄拠点の大規模化に強い自信を示した。マルコス氏も、弾薬拠点の設置や追加の米軍ミサイル配備について「安全保障環境の変化に対応するためには必要だ」との認識を示した。
南シナ海では、中国が広範囲にわたる領有権を主張し、フィリピン沿岸警備隊や海軍との衝突が依然として相次いでいる。フィリピン海軍は台風による悪天候下でも、中国海警局と人民解放軍の艦艇合わせて23隻を確認しており、警戒を続けている。
米国は1951年の相互防衛条約(MDT)に基づき、南シナ海でフィリピンの船舶や航空機が攻撃を受けた場合には防衛支援を行う立場を再確認しており、マルコス政権も日本を含む同盟国との安全保障ネットワーク拡大を進め、自衛隊の退役護衛艦の導入の検討など供給網の多様化を模索している。
米国はフィリピン人出稼ぎ労働者からの送金が最も多い国でもあり、両国関係の安定はフィリピン国民の安定した暮らしには欠かせないものとなっている。今回の首脳会談で移民問題が議題とならず、関税が1ポイント下がったことは、フィリピン側にとって大きな安心材料と言えそうだ。
さらにマルコス氏は、8月初めに予定されているインド公式訪問でも防衛・安全保障協力の拡充を協議する予定で、多国間の安全保障ネットワークを強化する姿勢を鮮明にしている。






