トップ国際アジア・オセアニア盟友との絆断ったフン・セン氏 タイ・カンボジアが軍事衝突  領土問題に潜む落とし穴

盟友との絆断ったフン・セン氏 タイ・カンボジアが軍事衝突  領土問題に潜む落とし穴

24日、タイ東北部シーサケート県で、カンボジア軍の砲弾を受け炎上するコンビニ(タイ陸軍のフェイスブックより・時事)
24日、タイ東北部シーサケート県で、カンボジア軍の砲弾を受け炎上するコンビニ(タイ陸軍のフェイスブックより・時事)

タイとカンボジアの両国政府は24日、世界遺産「プレアビヒア寺院」周辺の国境係争地付近で軍事衝突が発生したと発表した。軍事衝突は翌日も続き、死者は16人に上った。5月に発生した銃撃戦を契機に、両国の溝は深まり軍事衝突へと発展した格好だ。(池永達夫)

タイ政府は23日、カンボジアの駐タイ大使を国外追放し、外交関係の格下げを図ると発表したばかりだった。同時にタイの駐カンボジア大使の召還も決めた。

両国が抜き差しならない関係に陥った最大の理由は、カンボジアのフン・セン元首相(上院議長)のリークにあった。

フン・セン氏は6月18日、タイのペートンタン首相からの電話(6月15日)を録音しSNSで暴露した。ペートンタン氏は父のタクシン元首相と盟友関係にあるフン・セン氏を「おじさん」と呼び、タイ軍現地司令官を「敵対勢力」となじった上で「欲しいものがあれば私に言って」と相手に媚(こ)びるような発言を重ねている。

結局、この電話暴露でペートンタン首相は憲法裁判所から職務停止を命じられた。

またフン・セン氏は6月27日、昨年2月にタクシン氏が仮釈放された直後、バンコクの自宅を訪ねた時の実態を暴露した。公開写真には首や腕に装着された固定具が映っていたものの「撮影が終了するとすぐ外し、食事に出掛けた。病気ではなく演劇だった」というのだ。まさに容赦のない内情暴露だ。

そもそもフン・セン氏とタクシン氏は30年来、友情を育んできた盟友だ。

フン・セン氏は2009年、国外逃亡中のタクシン氏を経済顧問に招いている。さらに14年のクーデターで政権を追われたタクシン氏の妹のインラック元首相に対し、パスポートを用意しただけでなく脱出経路も準備し国外逃亡を手助けしている。また今年、マレーシアのアンワル首相に請われ、タクシン氏とフン・セン氏は両者そろって東南アジア諸国連合(ASEAN)議長の非公式顧問に就いてもいる。

フン・セン氏はなぜ、長年培ってきた盟友との絆を断ち切るような行為をあえてしたのか。

一つ考えられるのは、国家の尊厳に関わる領土へのこだわりだ。

カンボジアの地政学的なポジションは、その地図を見ると一目瞭然だ。ベトナムとタイに挟まれたカンボジアの海岸線は、巾着のひもをギュッと締めたように短い。インドシナ半島で人口規模や軍事力において、カンボジアがベトナムやタイの劣後にあったことの証左だ。

フン・セン氏には、そうした歴史的経緯から脱し、領土問題にけじめをつけ政治遺産としたい意向があるのかもしれない。

38年間に及んだ長期政権を息子のフン・マネット氏に引き継がせ、自らは院政を敷くフン・セン氏にとって主権は手の内にある。政敵は牢屋か国外に追いやって与党カンボジア人民党の統治は盤石、国民の票はほぼ掌握している。

国家の3要素を考えた場合、主権・国民を押さえたフン・セン氏にとって、残された宿題があるとすれば領土だ。

ただ、着地点はまだ霧の中だ。

とりわけ領土問題は双方の主権に関わり、国家の尊厳に結び付くだけにフン・セン氏の思惑には落とし穴が潜む。

さっそくタイの世論調査では、政府不信の反作用とも受け止められる軍への信頼度向上がデータとして上がってきた。

タイ国立開発行政研究院(NIDA)が7月上旬に実施した首相や政権に関する世論調査で、国民の80%超がペートンタン首相の辞職もしくは解散総選挙を求めていることが明らかになった。さらに次期首相にふさわしい人物として、14年のクーデターで軍政トップを務めた「プラユット元首相(陸軍司令官)」が33%と他の候補を圧倒した。

いまだポル・ポト派が埋めた地雷原に悩むカンボジアは、新たな隣国のナショナリズムという地雷原に足を踏み入れかねないリスクを抱えようとしている。

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