
フィリピン中間選挙が目前に迫る中、国政はマルコス派とドゥテルテ派の激しい対立で混迷を深めている。サラ副大統領は自身の弾劾問題を巡り上院選に総力を挙げる一方、両陣営のスキャンダル合戦や中国の選挙介入疑惑が影を落とし、フィリピンの民主主義の行方が問われている。(マニラ福島純一)
サラ氏は、国際刑事裁判所(ICC)に逮捕された父親のドゥテルテ前大統領が収容されているオランダ・ハーグから帰国後、本格的に選挙戦に乗り出した。とりわけ重視するのが、自身の弾劾裁判の行方を左右する上院選だ。仮に有罪となれば、次期大統領選に出馬できなくなる可能性があり、陣営にとっては正念場となる。
しかし現時点でドゥテルテ派は上院選で苦戦を強いられており、有力候補の擁立が課題だ。最新の世論調査では、上位12人の当選圏に入っているのは再選を狙うボン・ゴー議員とデラロサ議員の2人にとどまる。
こうした中、サラ氏は政権に批判的なマルコス大統領の姉アイミー・マルコス上院議員への支持を表明した。アイミー氏は当初からドゥテルテ前大統領の逮捕を「違法」と非難し、政権を追及してきた。しかし「マルコス」の姓に対する根強い不信感から、ドゥテルテ支持層の支持は伸び悩んでいるのが現状だ。
さらにサラ氏は、マルコス派の有力候補だったカミーユ・ビリャール氏への支持も明言した。元下院副議長で、国内有数の富豪で元上院議長のマニー・ビリャール氏の娘でもある同氏は、若年層を中心に人気が高い。兄のマーク氏も上院議員として活動しており、弾劾裁判での働きも期待されている。
また首都圏での影響力拡大を狙い、サラ氏はマニラ市長選で復帰を目指すイスコ・モレノ元市長の支持も表明。世論調査では現職市長を大きくリードしており、ドゥテルテ陣営にとって数少ない明るい材料となっている。
一方、選挙戦は両陣営によるスキャンダル合戦が激化し、政策論争は影を潜めている。注目を集めるのが、マルコス政権がドゥテルテ支持が固いビサヤ地方で開始した「20ペソ米」プログラムだ。これは、政府補助によって米価を1キロ20ペソ(約52円)に引き下げるというもので、選挙直前の開始に、ドゥテルテ派は「票集めのパフォーマンス」と批判。農民団体も、持続性のない値下げが本質的な米不足問題から国民の目をそらしていると反発し、最終的にプログラムは一時停止に追い込まれた。
5月2日には、ドゥテルテ前大統領の長男パオロ下院議員が、バーで実業家の男性を刃物で脅したとして刑事告訴された。事件自体は2月に起きていたが、選挙直前に告発が行われたことに、サラ氏は「政権による意図的なタイミング」と批判。「20ペソ米」問題からの目くらましだと主張している。
また、サラ氏がビリャール氏の支持を公式に表明した直後、同族が経営する水道会社に「サービス品質の悪化」を理由とした当局の調査が入った。以降、マルコス氏が集会で同氏の名に言及しなくなるなど、両陣営の溝が改めて浮き彫りとなった。
こうした政争の混乱に乗じるかのように、中国による選挙介入の疑惑も浮上している。政府当局は、中国がSNSを通じて世論操作を図り、親中派候補を支援している可能性を警告。またトレンティーノ上院議員は、中国大使館がフィリピン国内のPR会社に資金提供し、多数の偽アカウントを使って情報操作を行っていた疑いを指摘した。
さらに4月末には、マニラの選挙管理委員会近くでスパイ機器を搭載した車に乗っていた中国人が逮捕され、介入疑惑は一段と深まった。中国大使館は疑惑を否定し、「内政干渉の意図はない」としているが、マルコス大統領は全面的な調査を指示している。
国内の政争と外国勢力の影が交錯する中、フィリピンの民主主義と主権をいかに守るかが、今まさに問われている。