
フィリピン国内で中国人によるスパイ活動の摘発が相次いでいる。近年、日本でも問題視されている「偽基地局(IMSIキャッチャー)」を用いた通信傍受がフィリピンでも確認されており、複数の逮捕者が出ている。また近海では、中国製とみられる水中ドローンが相次いで発見されており、監視活動は海中にも及んでいる。こうした一連の動きは、中国による情報収集が安全保障上の深刻な脅威となっていることを浮き彫りにしている。(マニラ福島純一)
2025年1月、マカティ市で中国人技術者とフィリピン人2人が逮捕された。彼らは米比防衛協力強化協定(EDCA)拠点や軍事拠点の3Dマッピングを行っていた疑いが持たれている。同月、南シナ海の南沙(英語名・スプラトリー)諸島に近いパラワンでは観光客を装った中国人2人が比沿岸警備隊の艦艇を無断撮影し、さらに監視カメラをひそかに設置。軍施設を監視していたとされる。
2月には、マニラ首都圏で偽基地局を使った携帯電話の通信傍受が摘発され、中国人1人とフィリピン人2人が逮捕された。彼らは軍や大統領府など政府関連施設周辺で活動し、数千件に及ぶ通信データが押収された。
3月には、戦略的地域であるスービック湾のグランデ島に拠点を構えていた中国人5人が、民間企業を装いスパイ活動を行っていた疑いで逮捕された。
通信大手グローブは偽基地局のリスクに警鐘を鳴らし、政府と連携してサイバーセキュリティー体制の強化に乗り出している。異常な通信や信号を検知した際の通報も呼び掛けている。
マルコス大統領は中国人によるスパイ活動に対し、「非常に憂慮している」との声明を発表。「軍に対するこのような諜報(ちょうほう)活動は看過できない」と強調した。さらに、一部容疑者が現地で家庭を持っていたことに触れ、一般人を装い現地に潜伏する「スリーパー工作員」の可能性があると述べ、当局が継続して調査を進めていると明らかにした。
また、2022年から24年にかけて、フィリピン近海で中国製の水中ドローンが計5機発見されている。そのうち1機は、中国本土と通信し情報を送信していたことが国軍の調査で確認された。フィリピン政府はこれを深刻なスパイ活動と捉え、対応の強化に乗り出している。
一方で、中国は対抗措置としてフィリピン人3人をスパイ容疑で逮捕。両国間の緊張が高まっており、外交関係の悪化が懸念されている。
これらの事案は、フィリピンでの中国のスパイ活動が氷山の一角である可能性を示しており、偽基地局を使った同様の活動は、タイやインドネシアなど他国でも確認されている。中国のスパイ網が国際的に拡大しているとの見方も強まっている。
こうした活動は、フィリピンの主権と国家安全保障に対する重大な脅威となっている。特に南シナ海での領有権を巡る対立が激化する中、中国によるスパイ活動が一層活発化する恐れもあり、フィリピン政府には、地政学的リスクを見据えた安全保障戦略の再構築が求められている。