トップオピニオンViewpoint対中債務に苦しむパキスタン 中パ経済回廊が大きな負担に

対中債務に苦しむパキスタン 中パ経済回廊が大きな負担に

《ウィークエンド Viewpoint》

拓殖大学国際日本文化研究所客員教授 ペマ・ギャルポ

拓殖大学国際日本文化研究所客員教授 ペマ・ギャルポ

2015年にパキスタンのナワズ・シャリフ政権が「ゲームチェンジャー」と称賛した中国パキスタン経済回廊(CPEC)が、パキスタンにとって大きな負担になっており、これは皮肉なことだ。620億㌦の費用をかけて中国の支援を受け建設されたCPECが通るバロチスタン州には豊富な資源があり、過激派グループなどは中国の搾取に対して猛烈に反発している。

使わぬ電力代金、中国へ

過去数年間、バロチスタン解放軍の過激派はパキスタンの発電所やその他のプロジェクトに従事する中国人エンジニアや労働者数名を射殺し、最近では旅客列車のハイジャックを企てた。これは、パキスタン当局が中国の機嫌を損ねないために一般市民に恐怖政治を敷いているとして、過激派が抗議したものである。

3月14日のハイジャック後も暴力は続いている。この事件では、治安部隊員18人を含む少なくとも26人が殺害され、3月最終週にはバロチスタンで少なくとも8人が殺害され、17人が負傷、3人が拉致された。バロチスタン過激派の狙いは、石油と鉱物資源が豊富な同州におけるCPECの進展を阻止することのようだ。

昨年10月、カラチのジンナー国際空港付近で車列への自爆攻撃が行われ、中国人2人が死亡した後、バロチスタン解放軍はこの攻撃を「占領、抑圧、搾取」に対する報復と表現した。同団体は、CPECを「バロチスタンをさらに奴隷化し天然資源を略奪するための陰謀」と呼び、CPECの大規模プロジェクトを「バロチスタンの土地と生存に対する致命的な攻撃」と表現した。

パキスタン政府が対外債務返済のために国際通貨基金(IMF)に70億㌦の融資を求めたが、IMFからの条件を満たすためには、国内電力への補助金を停止する必要がある。もしも補助金が停止されれば一般の電力消費者は困窮し、バロチスタンだけでなくその他の地域でも政府の不人気をさらに高めるだろう。

パキスタンの電力コストは高い。高コストの理由は、電力購入契約に組み込まれた「容量支払い」条項にある。この条項により、パキスタン政府は、国内で電力生産している中国発電事業者に対して支払い義務がある。

容量支払いは、消費者が中国企業から電力を購入したかどうか、また中国企業が電力を生産したかどうかに関係なく、これらの中国企業に支払う必要がある。従って、この容量支払い条項によって中国企業はパキスタンの消費者に莫大(ばくだい)な発電料を負担させている。これにより、パキスタンは電力生産の莫大な余剰能力を抱えている一方で、カラチなどの大都市でさえ停電が頻繁に発生し、南アジアで唯一慢性的な電力不足に直面するという矛盾した状況が生まれている。

総額620億㌦の基金を持つ発電プロジェクトはCPECの最も重要な構成要素だ。「パキスタンは国営発電所を建設する代わりに中国企業を独立発電事業者として認め、生産量に関係なく容量支払いをさせている。これは国民が使用していない電力の代金を支払うことにつながる」とパキスタンへの中国投資専門家アジーム・ハリド氏はドイツ・メディアDWに語った。

CPECはパキスタン政府の対外債務を260億㌦近く増やし、22年、パキスタンは270億㌦相当の対中国債務を抱えており、これは世界のどの国よりも大きい。パキスタン指導者たちは70億㌦の救済パッケージを求めてIMFと交渉する以外選択肢が残されていない。政府は電気料金に補助金を支給することで一般の消費者を救済する計画だったが、IMFはパキスタン政府が補助金を出さないようにするため、10億㌦の分割払いの支給を差し控えていた。

中国は政府が電気料金を引き上げ、債務を返済するのに十分な収入をパキスタンが生み出すことを望んでいる。その結果、パキスタン首相は電気料金を8ルピー引き下げるという約束を守れなかった。アメリカはパキスタンに対し、IMFの援助は中国への債務返済に使うことができないと忠告したため、パキスタンはIMFの資金を中国企業に支払うことができず、自国の持続的経済発展にのみ使用することに限定されている。

救済の手、日本に期待

このようなパキスタンの困難を救えるのは同じアジアの大国であるインドと日本しかない。インドは中国の被害を受けたスリランカやモルディブなどの救済に励んでいるが、パキスタンとの複雑な歴史があるため、ぜひ日本がパキスタンを救済しアジアの自由と民主主義を守ってほしいと願う。

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