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フィリピン前大統領逮捕が波紋 現大統領派との対立加速

マニラ市内で3月15日に開催されたドゥテルテ前大統領支持派による抗議集会(2025年3月15日)
マニラ市内で3月15日に開催されたドゥテルテ前大統領支持派による抗議集会(2025年3月15日)

「麻薬戦争」超法規的殺人巡り
国際刑事裁判所(ICC)、権威回復の思惑

フィリピンのドゥテルテ前大統領が、国際刑事裁判所(ICC)の要請を受けて逮捕された。この衝撃的な出来事は、マルコス大統領の政治的な思惑だけでなく、ICCの権威回復という側面も指摘され、国内外の政治に大きな波紋を広げている。今年の中間選挙や2028年に控える次期大統領選への影響は必至の情勢で、フィリピンの政界は権力闘争の新たな局面に突入する可能性が高まっている。(マニラ福島純一)

ドゥテルテ前大統領は16~22年までフィリピンの大統領として、強硬な麻薬撲滅政策を推進した。しかし、この「麻薬戦争」の過程で、容疑者とされた数千人が超法規的に殺害されたとされ、国際社会から強い批判を受けていた。ICCはこれを「人道に対する罪」として捉え、正式な捜査を進めてきた。そして、マルコス政権は3月11日、ICCの逮捕要請に応じ、香港から帰国したドゥテルテ氏を空港で拘束に踏み切り、その日のうちにチャーター機でICCがあるオランダへ送還した。

この逮捕は、フィリピン国内に大きな衝撃を与えただけでなく、国際司法の影響力を再確認させる出来事となった。一方で、ドゥテルテ派の支持者たちは「政治的弾圧」と批判し、抗議活動を展開。国内世論も二分されている。

最新の世論調査によると、国民の51%が逮捕に賛成し、「法の支配を強化するために必要な措置」と評価。一方で、反対は25%にとどまっているが、特にミンダナオ島を中心とするドゥテルテ派の地盤では強い反発が続いており、今後の情勢次第で世論が変動する可能性もある。

ICCが今回の逮捕に踏み切った背景には、国際司法の権威回復の意図があるとも指摘されている。近年、ICCの影響力を疑問視する国が増え、ICCの管轄から脱退するケースも増加。このような状況の中、フィリピンの元国家元首を逮捕できれば、「国際的な法の支配を維持する組織」としての信頼を取り戻せると考えた可能性がある。特にドゥテルテ氏の「超法規的処刑」という事例は、ICCの人道犯罪追及の方針に合致しており、国際社会への強いアピールとなる。

一方、マルコス大統領は、「今回の逮捕はICCの要請に従ったもので、政治的な意図はない」と主張。自身がこの件に積極的に関与したわけではないことを強調した。しかし、フィリピンは19年にドゥテルテ政権下でICCの設立条約「ローマ規程」から離脱し、現在は締約国でなくなっている。

サラ副大統領が次期大統領候補として有力視される中、父親であるドゥテルテ氏の逮捕で彼女の政治的影響力を抑え込む思惑があると指摘されても不自然ではない。

サラ副大統領は、ドゥテルテ氏の逮捕を「政治的迫害」と批判し、ICCの逮捕要請を「フィリピンの主権を侵害する行為」と非難。「国外勢力による不当な誘拐行為であり、国家の主権を脅かす」とマルコス政権の対応を強く批判した。

有罪となって終身刑が科せられれば、ドゥテルテ氏は海外の刑務所に収監され、高齢のため生きて祖国に戻れない可能性もある。

そのため、マニラ首都圏やドゥテルテ氏の地元ダバオ市では、数万人規模の抗議集会が開催され、直ちに帰国させるよう訴えている。より大規模な抗議活動に発展する可能性もあり、治安当局は警戒を強めている。

ドゥテルテ氏の逮捕は、すでに深まっていたマルコス氏とサラ副大統領の対立を決定的なものにした。次期大統領選では、反マルコスで結束したドゥテルテ派の下で、サラ氏が立候補する可能性も高まっている。

そういった意味で、今年5月の中間選挙は、次期大統領選の前哨戦となる。ここでドゥテルテ派が結束を強め勢力を伸ばせば、大統領選に向けた基盤を築くことができる。逆に、マルコス政権が議会の多数派を維持し、ドゥテルテ派がさらに孤立すれば、サラ副大統領が弾劾に追い込まれ、次期大統領選でマルコス陣営が有利になる。

ドゥテルテ氏の逮捕がもたらした政治的変化は、今後数年にわたりフィリピンの政局を大きく揺るがし続けそうだ。

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