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タイ、ウイグル人45人を中国送還 迫害へ重大な懸念

ウイグル族の人たちが拘束されているタイの 入管施設=2024年6月、バンコク(時事)

タイ政府は2月27日、ウイグル人45人を中国に強制送還した。中国政府は「テロリストなどとの関係が疑われる」とし、タイに逃れていたウイグル人らの引き渡しを求めていた。日本ウイグル協会は翌日、実態は中国当局の迫害を逃れて脱出した難民だとして、「中タイ共謀のウイグル人強制送還非難声明」を出した。(池永達夫)

中国に強制送還されたウイグル人は、2014年に新疆ウイグル自治区から脱出した子供や女性を含む約200人の一部で、これまで11年間、バンコクの移民収容センターに入れられていた。この間、自由を奪われた劣悪な収容施設の環境下で幼児2人を含む5人の死亡が確認されている。

タイの地元紙は「27日早朝、窓が黒いビニールシートで覆われた数台のトラックが、バンコクの移民収容センターを出発した」と報じた。また航空機の位置をリアルタイムで表示する追跡サイト「フライトレーダー24」が、飛行予定のない中国南方航空機がバンコクを出発し、最終的に新疆ウイグル自治区に着陸したことを示したことも明らかになっている。

今回の強制送還に対し国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、「迫害の恐れのある国に送り返してはならないという国際法の原則に違反している」と非難した。わが国の岩屋毅外相も「誠に遺憾だ」として中国政府に基本的人権などを保障するよう働き掛けていく意向を示した。

新疆ウイグル自治区の人口は2585万人。この内、約半数の1200万人がほぼイスラム教徒のウイグル人だ。ウイグル人は長年、中国当局から迫害を受けてきた。

中国では憲法で「信仰の自由」が保障されているものの、有名無実化している。新疆ウイグル自治区では17年の条例で長いひげを生やすことや、女性が頭から全身を覆う衣服・ブルカの公共の場での着用を禁止した。また、同地域での宗教活動を禁止したり、多くのモスク(イスラム礼拝所)が破壊されてもいる。

中国によるウイグル人らへの非人道的行為に関し、国際法上犯罪となるジェノサイド(集団虐殺)や人道に対する罪に当たるとの非難が国際社会から相次いでいる。これまでに、米政府や欧州議会、英仏議会など11の議会が、ウイグルのジェノサイドや人道に対する罪を認める決議をしている。

中国当局のそうした抑圧政策や迫害から逃れるため、国境を越えて東南アジアにいったん避難し、トルコなどへの亡命を目指す動きが一時広がった。今回、強制送還されたウイグル人もそうした人々だ。

2月の下旬、強制送還へと動いたタイの背中を押したのは、中国の習近平国家主席だった可能性が高い。タイのペートンタン首相が訪中したのは2月初旬だった。同首相は2月6日、北京で習氏と会談し、中国人俳優がタイを経由してミャンマーで人身売買被害に遭った事件を受け、協力して犯罪組織を取り締まることを確認した。この時、同首相は「タイを訪れる人の安全確保は、政府にとって最優先事項だ」と述べているのが何とも皮肉な話だ。

タイ政府は27日、閣僚らが記者会見を開き、ウイグル人の送還を認めた上でプームタム国防相が「われわれは送還された人たちが公正な待遇を受けるという保証を中国から得た」と述べ、「安全を担保した送還だった」と強調した。

そうであるなら、タイ政府は中国がその約束を守るかどうか見届ける責任がある。

タイ政府は15年にも、監禁や投獄といった迫害のリスクがあることを知りながら109人のウイグル人を中国へ強制送還した経緯がある。中国国営中央テレビは当時、航空機内で中国の当局者に挟まれ、黒い頭巾を被(かぶ)せられて送還される109人の姿を放送した。その後、彼らの一切の消息は不明なままだ。タイ政府がその後、109人の行方を探索した形跡もない。

なお、日本ウイグル協会は2月28日の非難声明で、15年に強制送還された109人と今回強制送還された45人、そして今でもタイに残るとされるウイグル人難民の所在を明らかにし、独立した国際調査団との面会や調査を許可するようタイと中国の両方に圧力をかけることを求めている。

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