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フィリピン、副大統領の弾劾訴追で政争激化 上院選が大統領選の前哨戦に

フィリピンのマルコス大統領(右)とサラ・ドゥテルテ副大統領(左)=2024年5月、北部バギオ市(副大統領府提供・時事)
フィリピンのサラ・ドゥテルテ副大統領の弾劾裁判が、同国の政治情勢を大きく揺るがしている。かつて同盟関係にあったマルコス大統領とドゥテルテ一族は、この弾劾訴追を機に対立を先鋭化させ、政界は分裂の様相を強めている。今年の中間選挙は両派の勢力争いの最前線となり、特に弾劾裁判の行方を左右する上院選は、次期大統領選の前哨戦としての意味合いを帯びてきた。マルコス政権が影響力を拡大するのか、それともドゥテルテ派が巻き返しを図るのか、政局の行方に注目が集まる。(マニラ福島純一)

サラ氏に対する弾劾訴追は今月に下院で可決され、上院で弾劾裁判が開かれる見通しとなった。弾劾の理由として、教育省の機密資金の不正使用疑惑、さらにはマルコス氏の暗殺計画を示唆する発言などが挙げられ、国民の信頼を裏切ったとされている。しかし、ドゥテルテ派はこれを「政治的迫害」とみなし、弾劾の正当性や法的手続きに異議を唱えている。

反ドゥテルテ派からは、5月の中間選挙前に弾劾裁判を開始すべきだとの声が上がっているが、エスクデロ上院議長は慎重な姿勢を崩していない。今のところ弾劾裁判は選挙後の6月、もしくは7月のマルコス氏の施政方針演説後になる可能性が高い。さらに、大統領府は「上院から正式な要請がない限り、弾劾裁判のために特別議会を招集する意向はない」と明言しており、裁判の開始が選挙後に持ち越される可能性が高まっている。

弾劾裁判を巡り、中間選挙でドゥテルテ派が上院でどれだけ議席を確保できるかが最大の焦点となっている。弾劾裁判では上院の3分の2以上の賛成があれば有罪判決が確定し、副大統領職を失うことになるため、上院選の結果が弾劾裁判の行方を大きく左右する。

すでに選挙戦は過熱しており、両陣営のつばぜり合いが激しさを増している。

選挙活動の一環として、ドゥテルテ派の本拠地であるミンダナオ島ダバオ地方を訪れたマルコス氏は、南シナ海の領有権問題の激化はドゥテルテ前政権の「譲歩」が招いたものだと痛烈に批判。さらに、前政権下で拡大した中国系オンラインカジノが犯罪拠点と化し、治安の悪化を引き起こしていると指摘。ドゥテルテ派の政治的責任を追及し、同派の政治基盤を切り崩す狙いがあるとみられる。

一方、ドゥテルテ前大統領は、マルコス氏が父親と同じように戒厳令を発動し、選挙を回避して権力を維持する可能性があると警告。サラ氏の弾劾は、その布石で単なる政治的迫害だと指摘し、マルコス政権を痛烈に批判した。

最新の世論調査によると、マルコス氏の全国支持率は36%で、ドゥテルテ一族の18%を大きく上回り、マルコス派が優勢を保っている。しかし、ドゥテルテ派の地盤であるミンダナオ島では、マルコス氏の支持率が25%から8%に急落していることも分かっており、弾劾を巡る反発が高まっている可能性がある。

このため、中間選挙でドゥテルテ派が上院の議席をどれだけ確保できるかによって、弾劾裁判の行方だけでなく、2028年の大統領選の構図も大きく変わる可能性がある。

仮にサラ氏が弾劾裁判で有罪となり、判決に公職追放が含まれた場合、次期大統領選への出馬は不可能となる。この場合、マルコス派が有利になる可能性が高いが、一方でドゥテルテ派の支持者が結束し、大規模な反発を招くリスクもある。そのため、弾劾裁判の開始を遅らせることで政局を安定させ、「落としどころ」を模索している可能性も指摘されている。

サラ氏の弾劾裁判は、単なる個人の進退問題ではなく、次期大統領選の行方を占う重大な政治闘争の様相を呈している。マルコス派が弾劾を成立させ、ドゥテルテ派を政界から排除するのか、それともドゥテルテ派が反撃し、次期大統領選に向けて勢力を巻き返すのかに注目が集まる。

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