■世界を騒がせたトランプ大統領就任
アメリカのトランプ大統領は1月20日の就任式直後からパリ協定からの離脱・世界保健機関(WHO)からの脱退などで世界を騒がせた。アメリカ国内の不法移民を強制送還することや出生地主義の方針を血統主義に変更するなど自国第一にする40本以上の大統領令・大統領覚書に署名した。

トランプ氏、就任直後から大統領令など40本以上署名 バイデン政権から大幅転換アピール
https://www.sankei.com/article/20250121-2AYBQ4RLT5JVHNTGDXOB5I3N7U/
同時に、アメリカ国内で生まれると自動的にアメリカ国籍が与えられる「出生地主義」の制度を廃止する大統領令に対して憲法違反として22の州の司法長官が差し止めを求める訴えを起こした。
しかし、トランプ大統領の方針にはテロ組織などへの対応はあるが仮想敵国への具体的な軍事対応は示されていない。トランプ大統領はロシア・中国・北朝鮮・イランに対しては経済や外交で対応するかのような穏便な動きが見えるが、アメリカを守る軍事力に関しては具体性に欠けている。
■核巡る暗黙の了解
アメリカは冷戦期に国際情勢の変化に対応して作戦計画の基本方針を定めた。この基本方針は核戦争も含んでいるのでトランプ大統領の軍事的方針を知る手がかりになるはずだ。アメリカの基本方針は国土戦域の戦争・前方戦域の核戦争・前方戦域の通常戦争・覇権戦域の局地戦争の4区分。
国土戦域の核戦争 =戦略核戦争(米ソ全面戦争)であり米国が戦う。
前方戦域の核戦争 =戦域核戦で核保有国(米英仏)が連合して対処。
前方戦域の通常戦争=通常戦で連合対処。
覇権戦域の局地戦争=同盟国が第一次責任、米国は軍事援助
核戦争は冷戦期に検討されたが実行されないまま現在に至っている。理由は簡単で東西両陣営に分離されたことで一発でも核ミサイルが撃たれたら何処に落ちても全面核戦争に至る。そうなると政治家も核攻撃を受けるので戦略核ミサイルを互いに撃たないようにした。ならば戦略核ミサイルよりも核威力の小さい戦術核が使えると研究された。
研究を進めると核威力の小さい戦術核だとしても大量に使うと汚染範囲は戦略核ミサイルと同じになることが判明する。結局、戦略核ミサイルと戦術核ミサイルを分離して運用理論を樹立しようとしたが無理な話であった。
イギリスの戦略理論家リデル・ハート
「戦略核戦争論と戦術核戦争論を分離するのは無理。所詮、核弾道ミサイルは使えない兵器だ」
リデル・ハートの主張は正しく、核保有国同士の「相殺戦略」として、核武装国同士は都市・インフラなどの互いの国土戦域の目標に対する撃ち合いはしないという暗黙の了解という原則が生まれた。
■日本は核攻撃を受けない
核保有国の中国は有事になると日本を核攻撃をすると脅す時がある。これはハッタリで中国は日本を核攻撃できない。何故なら日本には在日米軍基地が日本各地に置かれているので、在日米軍基地が中国からの核攻撃に巻き込まれたら中国はアメリカを攻撃したことを意味するからだ。
軍隊の基地は外国に置かれていても基地内部は国家主権だから、ここを攻撃することはアメリカを攻撃することと同じ。これは人類が戦争で導き出した経験則だから、自殺覚悟でなければ核攻撃をしない。
このため中国が日本を攻撃するなら通常戦力の軍隊を使う。中国が通常戦力を使うなら在日米軍基地は日本を軍事支援するが戦闘に参加しない可能性が高くなる。これは覇権戦域の局地戦争だから、中国が日本に侵攻する時に使うのは当然。
では仮に中国が通常戦力で在日米軍基地を攻撃すると、アメリカ本土への攻撃を意味するから前方戦域の通常戦争になり中国は日米両軍と戦争することになる。これが明らかだから中国は通常戦力で在日米軍基地への攻撃を避けながら侵攻する。だが中国は台湾へ核攻撃を行う。何故なら台湾は政治・軍事の空白地帯に位置するからだ。
■空白地帯の恐ろしさ
ロシアは2022年にウクライナに侵攻し戦争が始まった。そしてロシアとウクライナの戦争は今も継続しているが、何故ロシアはウクライナに侵攻したのか?
それはウクライナがNATOに加盟していない空白地帯だったからだ。
冷戦期は核戦争は発生せず代わりに代理戦争が世界各地で発生した。国家間の戦争でもなく東西両陣営の代理戦争としてガス抜きが行われた。東西両陣営共に核戦争でもなく国家間の通常戦争でもなく、代理戦争で覇権を争った。これは世界が明確に東西に分かれたことで国家間の戦争が難しくなったからだ。
冷戦が終わると東西両陣営の境界が曖昧になり世界各地に政治・軍事で空白地帯が生まれた。その一つの空白地帯がウクライナ。実際にロシアがウクライナに侵攻しても欧米はウクライナを軍事支援するだけでNATOやアメリカ軍などは実戦参加していない。
さらにフィンランド・スウェーデンは空白地帯の危険性に気付き、素早くNATO加盟を選んでいる。政治・軍事で空白地帯の国は外国からの侵攻を受けることが判明し、同時に核攻撃を受けるからフィンランド・スウェーデンはNATO加盟を選んだ。このような事実が存在することを日本の政治家の多くが理解していない。
台湾も政治・軍事で空白地帯だから中国が台湾に侵攻すると同時に台湾を核攻撃することも可能。このため中国が台湾に通常戦力で侵攻すると覇権戦域の局地戦争としてアメリカは台湾を軍事支援する。これは現在のウクライナ支援と同じ。仮に中国が台湾を核攻撃してもアメリカは中国に対して核攻撃を行わない。何故なら中国はアメリカを攻撃していないらアメリカも中国に核攻撃を行う意味がない。
アメリカから見れば台湾は政治・軍事で空白地帯だからアメリカの戦争ではない。だが台湾は海上交通路を遮断する位置に存在するから中国に渡すことはない。このため、仮に中国が台湾を核攻撃しても通常戦力で台湾防衛を行うだけに限定される。つまり台湾が核攻撃を受けてもアメリカは中国本土・北京などを通常戦力だとしても攻撃しない。
■日本と台湾の対抗策
日本と台湾の立場は異なるが一致することもある。共に海上交通路の要点に位置しているからアメリカは重視する。そしてアメリカから見ればアメリカが想定する戦場に想定されている。さらにアジアにおけるアメリカのための防波堤の役割でありアメリカの代わりに代理戦争が想定されている。
今の日本と台湾の軍事力だけでは中国との戦争に勝ったとしても損害が大きくなる。人命・物的損害回復には30年の歳月を必要とする場合もある。だが戦争回避を行うと中国に占領されて日本から日本人が消えてしまう。ならば今の日本は軍事力の増強と同時に中国・ロシアなどが日本を攻撃できない環境を作るべきだ。
対抗策1:日本は核ミサイルを保有する。
対抗策2:日本と台湾の軍事同盟。
対抗策3:アジア版NATOの設立。
対抗策4:既存のNATOに日本と台湾が加盟する。
対抗策として4つほどあるが、対抗策1は日本が核ミサイルを保有すると維持費が高いし、アメリカ大統領が変わると日本を警戒する材料になるから不経済。対抗策2はアメリカの都合でアメリカ軍が参加しない可能性があるから危険。
対抗策3は既にアメリカから一蹴されているから無意味。対抗策4は既存のNATOだから日本と台湾を安い維持費で国防できる。何故ならNATO加盟国に通常兵器・核兵器で攻撃すると、加盟国が攻撃した国に集団で反撃する。このため中国・ロシアだとしても自殺覚悟でなければ攻撃しない。実際にこの理由からフィンランド・スウェーデンはNATOに加盟した。
日本では「日本の核弾頭保有論」を口にする者が増加しているが、これは誤りだ。最も効果的で安い維持費で日本と台湾を守れるのはNATO加盟だ。実際にフィンランド・スウェーデンが核弾頭保有ではなくNATO加盟を選んでいる。それだけで確実性があり守れることをロシアのウクライナ侵攻が教えた。日本の政治家はNATO加盟を選び国民を守るべきだ。
(この記事はオンライン版の寄稿であり、必ずしも本紙の論調と同じとは限りません)