トップ国際アジア・オセアニアフィリピン、同盟国との連携本格化 米中距離ミサイル導入へ

フィリピン、同盟国との連携本格化 米中距離ミサイル導入へ

マニラ首都圏ケソン市で、軍事情報包括保護協定(GSO MIA)の署名式に臨むオースティン米国防長官(左)と フィリピンのテオドロ国防相=2024年11月18日(在フィリ ピン米大使館提供・時事)

フィリピンが中距離ミサイルシステム「タイフォン」の導入計画を発表し、中国の強い反発を招いている。さらに、上院で日本との部隊間協力円滑化協定(RAA)が承認されるなど、南シナ海における領有権問題を念頭に、安全保障環境を見据えた連携強化も本格化している。これにより、南シナ海における抑止力の強化が期待される一方で、中国との関係が一層緊張する可能性も懸念されている。(マニラ福島純一)

フィリピン国軍は昨年12月に米国製のタイフォン・ミサイルを導入する計画があると発表した。同ミサイルは昨年4月に実施された軍事合同演習の際に米軍によって持ち込まれ、フィリピン北部に配備されていたが、撤収されなかったことから中国から反発の声が上がっていた。

同ミサイルシステムはSM6のほかトマホーク巡航ミサイルの発射も可能で、約480㌔の射程を持っているとされており、特に南シナ海など中国との対立が激化している安全保障環境において、防衛力の強化が期待できる。

今回の正式導入計画の発表を受け中国外務省の毛寧副報道局長は、「フィリピンがこの戦略的攻撃兵器を導入することによって緊張や対立を助長し、軍拡競争を煽(あお)ることになる」と指摘した。その上で、中国は同ミサイルの配備に「断固反対」を何度も表明してきたと強調。同ミサイルは核弾頭が搭載可能で、防衛兵器ではなく攻撃的な兵器であると述べ、フィリピン政府の決断を強く非難した。

これに対しテオドロ比国防相は、「中国共産党が本当に地域の緊張を緩和するつもりなら、軍事的威嚇や挑発行動をやめ、国際法を順守すべきだ」と反論。フィリピンが同ミサイルを配備することは正当かつ合法であると強調し、他国への内政干渉をやめるよう中国に警告した。

また、フィリピン上院は昨年12月に、日本とのRAAを承認した。今後、日本の国会での承認を経れば、自衛隊はフィリピン国軍との共同訓練や情報共有が可能になるほか、「航行の自由作戦(FONOP)」を通じた南シナ海での共同パトロールの実施など、中国への圧力を強化する取り組みが期待されている。

ほかにもフィリピン政府は、中国人へのビザ発給を厳格化する措置に踏み切っている。その背景には、オンラインカジノ事業を隠れみのにした中国系犯罪組織によるオンライン詐欺の蔓延(まんえん)や、そこで不法就労する中国人労働者の取り締まりがある。この影響で、コロナ禍前の2019年には韓国人観光客に匹敵する約170万人の中国人がフィリピンを訪れていたが、23年には3位の日本人を下回る約25万人にまで減少した。

観光省は24年の観光客数の目標を770万人と設定していたが、達成には至らず、その原因の一つとしてビザ発給の厳格化による中国人観光客の減少を挙げている。政府はこの措置が犯罪対策であり、反中政策ではないと強調しているが、両国関係の冷え込みを象徴する出来事と言えるだろう。

タイフォン・ミサイルの導入計画とRAAの承認は、中国の南シナ海進出を巡る安全保障において大きな進展と言える。一方で、中国の強い反発を招き、両国間の緊張がさらに高まる懸念も否定できない。この状況下で、フィリピン政府は防衛力の強化を推進しつつ、外交関係のバランスを維持するという難しいかじ取りを迫られている。すでに中国人観光客の大幅減少といった経済的影響も表れているが、政府の対応からは国家安全保障を優先する強い意志がうかがえる。

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