
2年前に債務不履行(デフォルト)に陥ったスリランカがこのほど、「デフォルト終結」を宣言した。信用格付け会社が今月下旬以降、相次いでスリランカの格付けを引き上げたことを受けての宣言だった。(池永達夫)
格付け会社フィッチ・レーティングスは20日、スリランカの長期外貨建て発行体デフォルト格付け(IDR)を「制限的デフォルト」から「CCC+」に引き上げた。米格付け大手ムーディーズ・レーティングスも23日、IDRをデフォルト状態の「Ca」から「Caa1」へと3段階引き上げた。
フィッチは引き上げ理由として、債券交換による債権者との関係正常化や債務支払期限繰り延べによる対外金融の改善などを挙げた。

またムーディーズも、経済安定化の核心部分である国債約125億5000万㌦(約2兆円)の再編を所有者が承認したことによって、スリランカの信用力が過去2年間で改善したと評価した。
だが、この朗報は今秋、大統領に就任したディサナヤカ氏の政治力でもたらされたものではなく、9月の大統領選で3位に沈んだウィクラマシンハ前大統領の功績によるものだ。
スリランカは2022年4月、対外債務が支払えないデフォルトに陥った。新型コロナウイルスが主要産業の観光業に大打撃を与えるとともに、輸出と海外出稼ぎ労働者の送金を急減させた。深刻な外貨不足はインフレと物資不足をもたらし、13時間に及んだ計画停電や給油に長蛇の列をつくるなど生活を直撃された国民はデモで抗議。大統領官邸が襲撃されるなど混乱の中、ラジャパクサ兄弟は大統領と首相の座を追われた。その後を継ぎ22年7月に大統領に就任したウィクラマシンハ氏は、国際通貨基金(IMF)から30憶㌦(約4750憶円)相当の支援を取り付け、一時は70%を超えたインフレ率を3%程度まで低下させるなどマクロ経済を安定させた実績がある。
だが電力の値上げや増税などIMFとの約束を履行したことで国民の不満と反発は強く、今秋の大統領選で緊縮財政を非難したディサナヤカ氏に敗北を喫した。ウィクラマシンハ氏にしてみれば、経済再建に成功しながらも政治の逆風に遭遇して政権を失った格好だ。
一方、就任したばかりのディサナヤカ大統領にしてみれば、「デフォルト終結」宣言は大きな政権浮揚力をもたらすクリスマスプレゼントとなった。9月下旬の大統領就任式の翌日、議会を解散して総選挙を実施。11月14日の投票結果は、ディサナヤカ氏率いる国民の力(NPP)が議席3人という超弱小与党から159議席を獲得し、第1党に躍り出ることでねじれ現象を解消してもいる。
スリランカは人口2100万人規模の小さな島国ながら、インド洋シーレーンの要衝にある。そのインド洋は世界の海上エネルギー輸送の3分の2、コンテナ輸送の2分の1を占めるシーレーンが走る。「インド洋の宝石」と呼ばれるスリランカは、南端のハンバントータ港沖をタンカーなど年間6万隻もの船舶が通行する。さらに南の海域は暴風圏で海が荒れているからだ。そうした地政学的要衝に位置するスリランカは、パワーゲームの舞台になってきた。
とりわけ中国は西側世界から批判される「債務のわな」で、ハンバントータ港の99年間の運営権を取得し、日印が共同参入することに決まっていたコロンボ港東コンテナターミナル(ECT)に割って入る形で中国国有企業がその開発事業をもぎ取った。ユーラシア大陸の東西を陸と海でつなぐ中国の一帯一路構想は、その地域のインフラ整備をステップボードに、中国人民解放軍の拠点確保という安全保障が絡む。
こうした中国の進出を懸念する米国やインドなどが積極的にスリランカにアプローチする形でパワーゲームは展開しており、本格的な経済再建に向けたスタート台に立ち、政治基盤も整えたディサナヤカ新政権がどう外交の舵(かじ)を切るのか注目される。