Home国際アジア・オセアニアフィリピン麻薬戦争、前大統領への責任追及が再燃 処刑部隊認める

フィリピン麻薬戦争、前大統領への責任追及が再燃 処刑部隊認める

「直属」処刑部隊が実行 現政権との間に亀裂も

10月28日、フィリピン上院で証言に臨む ドゥテルテ前大統領(AFP時事)

ドゥテルテ前比政権で物議を醸した麻薬戦争に関する追及が再燃している。ドゥテルテ前大統領の娘サラ・ドゥテルテ副大統領とマルコス大統領の関係悪化に加え、元警察高官の新たな証言も加わり、ついにドゥテルテ氏が上院の公聴会に召喚されるに至った。公聴会でドゥテルテ氏がデススクワッド(処刑部隊)の存在を認めるなど、国際刑事裁判所(ICC)の調査が本格化する可能性も指摘されている。(マニラ福島純一)

10月に下院で行われたドゥテルテ前政権の麻薬戦争に関する公聴会で、元国家警察高官のガルマ氏が、麻薬関連の犯罪の容疑者を殺害した警官に報奨金が支払われていたと証言した。これはドゥテルテ氏が市長を務めていたミンダナオ島ダバオ市で導入された方式であることから、「ダバオ・テンプレート」と呼ばれていたという。また殺害対象を決める「麻薬常習者リスト」も上層部によって作成されていた実態も明らかにした。

このような中、麻薬戦争を主導したドゥテルテ氏に証言を求める世論が高まり、10月末に上院の公聴会への召喚が実現した。ドゥテルテ氏はガルマ氏の報奨金に関する証言を否定する一方で、麻薬容疑者の殺害は自身が組織した処刑部隊が実行し、警官は関与していないと証言した。処刑部隊は主にギャングなどの犯罪者で構成され、警官が容疑者を殺害し停職処分などの責任を負わせることを避けるためだと説明した。

さらにドゥテルテ氏は、「麻薬戦争は成功もあったが失敗もあり完璧ではなかった」とした上で、「麻薬戦争すべてについて私一人が全責任を負う」と強調した。

ドゥテルテ氏は大統領就任後、麻薬戦争を宣言し、6カ月以内に国内の麻薬犯罪を撲滅すると豪語。演説で「麻薬関係者を射殺せよ」と繰り返し発言するなど国内外で物議を醸し、その超法規的殺人の犠牲者は6千人を超えるとも言われている。

このドゥテルテ氏が行った処刑部隊に関する具体的な証言は、ICCの調査で決定的な証拠として扱われ、人道違反の追及に直接的な影響を与える可能性もある。エスクデロ上院議長は、ドゥテルテ氏の証言を受け、ICCから要請があれば公聴会での調査記録を提供する用意があると述べている。

今のところマルコス政権はICCへの協力に対し消極的な姿勢を取っているが、国内外からの圧力が高まれば再考を迫られることも考えられる。マルコス氏は大統領当選後、麻薬戦争の在り方を見直し、より人権を尊重する姿勢を打ち出すなどドゥテルテ氏と一定の距離を置く姿勢に転じた。

このようなマルコス家とドゥテルテ家の擦れ違いが重なり、次第に対立を深めたサラ・ドゥテルテ氏は、結果的に教育相の地位を失い、同盟関係は完全に崩れる結果となった。自身も教育省の機密費の使途を巡り激しい追及を受けているサラ・ドゥテルテ氏は、「マルコス氏は大統領としての資質がない」と公に批判し、前回の正副大統領選挙での同盟は間違いだったと発言するなど、亀裂はさらに深まっている。

麻薬戦争を巡る責任追及がこのまま激しさを増せば、両陣営の対立はさらに深まり、今後の政治運営や次期大統領選の構図にも大きな影響を及ぼす可能性がありそうだ。

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