
タイが東南アジア諸国で初めて、同性婚を認める国となる。ワチラロンコン国王はこのほど、同性婚を認める「結婚平等法」を承認し、公布した。来年1月に発効する。同性婚の法制化は台湾、ネパールに次いでアジアで3例目。性的マイノリティーの海外観光客増加が見込めると同時に、学校の教育現場で同性婚が結婚の一形態として存在することが教え込まれることで将来、児童の家族観がどういった社会的変革の波をもたらすことになるのか懸念される側面も大きい。(池永達夫)
結婚平等法では「男性」や「女性」を「個人」と表現し、男女カップルだけでなく、同性同士も結婚できるようになる。また同性カップルも配偶者への治療の同意書に署名したり、法的な相続権を獲得できるようになる。ただ、当初の法案では「父親と母親」ではなく、「両親」という言葉を使うべきだとしたものの、下院はこれを却下した。
観光業が裾野産業を含めると国内総生産(GDP)の約3割を占めるとされるタイでは、医療ツーリズムはじめムエタイ留学など、あらゆる知恵を総動員して海外からの観光客呼び込みに余念がない。とりわけコロナ禍でほぼ4年間、観光業界にいてつく氷河期が到来したことを考えると、観光業復活のためにあらゆる手立てを尽くしたいという意気込みが感じられるような昨今だ。
観光業者は、今回の同性婚認可も欧米に多い性的マイノリティーのタイ訪問を増やし、観光ビジネス振興に効果があると読んでいる。
近年は海外の同性婚カップルがタイを拠点に、タイ人やミャンマー人、それにカンボジア人などの子供を養子に迎えるために訪れるケースが増えている。だがタイで同性婚が法的に家族として認められる今回の措置で、エージェントを通し非合法すれすれのところで養子縁組する必要がなくなり、同性婚カップルが法的なそしりを受けることなくタイ人の子供などを養子に迎えることができるようになる。
ただビジネスとしての養子縁組は成立するかもしれないが、同性カップルの両親に迎えられる子供の家族観に与える影響を考えると、それでいいのかと考えてしまう。
また、将来に禍根を残すことが懸念されるのが学校教育の問題だ。
来年1月以降、タイの学校教育の現場では、結婚形態は男女カップルだけでなく、同性カップルの結婚も選択肢の一つとしてあるのだと教えられることになる。つまりタイでは「性の多様化」教育が本格的に始まることになる。それが将来、社会的にどういう波及効果をもたらすことになるのか、個人的には人生の幸福度を高めることにつながるのか、首を傾げざるを得ない。
なお台湾は2019年、同性婚を合法化しアジアで初となった。
ネパールは23年11月、最高裁が同性婚支持判決を下した。
一方、インド最高裁判所は23年10月、同性婚合法化を不認可とする判決を下し、最終的な決定は政府に委ねるとした。政府は、同性カップルの法的権利拡大に関する委員会を設置している。
シンガポールは22年、同性愛行為を犯罪とする植民地時代の刑法の条項を廃止した。一方で憲法を改正し、男女間の婚姻という定義に裁判所が異議を唱えることができないようにしている。
また同性婚どころか同性愛が違法となっているのがマレーシアとブルネイだ。イスラムを国教としているマレーシアとブルネイでは、同性愛に対し厳しい。マレーシアでは同性愛は最長20年の禁錮刑となり、ブルネイでは投石による死刑という刑法が存在する。